研究課題/領域番号 |
21K19789
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
橋本 直己 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70345354)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | プロジェクションマッピング / 明環境 / 光減衰制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、今まで用いられてこなかった“光を減ずる”という新しい概念に基づいて、プロジェクタが苦手とする明るい場所でも、実在する物体に多様な見た目や質感を与えるProjection Mapping技術の確立を目指している。まずは、光を減衰させる光減衰制御部を、液晶パネルを利用して作成することを試みた。さらに、プロジェクタを照明装置とみなし、通常の照明装置をそもそも用いない状況において、明るい環境とプロジェクションマッピングの両立についての検討も行った。プロジェクタを照明代わりに用いる新しい発想に基づき、プロジェクタの配置や壁への投影方向、光の伝搬経路などについて実験的に検討を行った。 また、これと同時に、空間に複数台のプロジェクタを用いてプロジェクションマッピングを実現する技術についても検討を行った。既にサービス展開されている技術であるが、設定の特殊化や機材の複雑化が進む点が問題視されているため、これらをできるだけ簡易かつ手軽に実現できる構成に再校正することを目標に、検討を行った。GPU搭載型の小型マイコンとプロジェクタの組み合わせを基本として、これを無線ネットワークで接続することで、スケーラブルに投影範囲を拡張できるシステムの構築を行った。過去に提案した、魚眼レンズを組み合わせた広域幾何補正技術を活用し、新たな空間に対しての投影を速やかに実施できる枠組みも構築した。加えて、3次元形状計測に基づく広域投影システムの検討も行い、事前校正されたProCamユニットを用いて,置くだけで広域投影が実現できるシステムの提案を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光を減ずるデバイスとして発案した液相パネルを用いたシステムを試作して評価したところ、液晶パネル透過時の光の減衰が予想以上に大きく、相当に明るい環境光を前庭としなければいけないことが明らかになった。これは当初想定していた補助光源による光の追加が機能すると考えれるが、あまりに強力な補助光源の設置は、室内の通常の明るさ環境において視認できるプロジェクションマッピングとは、少し狙いがずれてしまう可能性があると判断した。そこで、プロジェクタに照明装置の役割を兼ねさせる方式を提案し、基礎的な評価を行った。小部屋をイメージした壁で囲まれた空間において、複数台のプロジェクタを用いて白色光で照らすと共に、局所的に設定した領域でプロジェクションマッピングを実現する環境を思索し、周囲からの環境光の影響を評価した。これにより、天井や床面などを介する間接光を照明として主に用いることで、直接投影光によって実現されるプロジェクションマッピングと共存できる可能性が確認できた。このアプローチに関して、この後も引き続き検討を行っていく予定である。 また、室内においてプロジェクションマッピングを実現する手法を発展させる検討として、小型マイコンとプロジェクタを組み合わせたユニットに基づく投影システムを構築し、15台のプロジェクタを同時制御することに成功した。これまではプロジェクタの台数が増えるたびに、映像送出用コンピュータも同時に増えていき、高性能な環境が要求された。これがマイコンベースで、かつ、複雑な補正処理を個別に実施することで、各プロジェクタの独立性を高め、スケーラビリティの向上を実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
明るい環境においてプロジェクションマッピングを実現する目的に対しては、これまでの検討結果から、プロジェクションに照明機能を兼務させる方針を採用させる。その上で、局所的にプロジェクションマッピング領域を設定し、周囲からの間接反射光の影響を極力抑えて、明環境と共存可能な映像投影状況の実現を目指す。特に、照明として白色光を当てられている環境からの影響を極力抑えつつ、照明効果を維持する方法について検討を行う。加えて、部屋全体をプロジェクタで照らすことは大がかりになりすぎるため、通常照明とプロジェクタ照明が混在した環境についても検討を行う。両者の明るさや配光特性の違いを吸収しつつ、相互にシームレスに環境を遷移させられる条件について検討を行う。 また、室内においてプロジェクションマッピングを実現する手法の発展に関しては、これまでのスケーラブルなシステムをさらに発展させ、多様な環境において実用化できる程度まで精度を向上させる。今年度は、学内外において実践的に稼働させる機会を得る予定であるため、それらの機会を通して実用経験を積むと共に、課題の洗い出しを行う。また、これまでのカメラ観測ベースの歪み補正に加えて、3次元形状計測に基づく投影手法を組み合わせ、マルチプロジェクション時における設置調整走査を大幅に削減することを目指す。 以上を総合的に応用した結果として、室内のある壁面を利用して、他の部屋や空間と、空間どうしを接続して一つの空間のように見せる技術の研究開発にも着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体不足の影響でカメラなど実験機材の納期が1年以上となったため、予定していた実験機材の調達が困難であった。また、コロナ禍の影響により、被験者による評価や国際会議での発表が予定通り実施できなかった。次年度は状況が改善できると考え、今年度の計画を次年度に繰り越して実施する予定である。
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