水酸アパタイト(HAp)は骨欠損部に埋入されると周囲の骨と結合する。このHApの骨結合性は1970年代後半に見出されたが、HApの分子レベルでの骨結合性発現機構は未だに不明である。体内に埋入されたバイオマテリアルの表面で最初に起こるイベントは、タンパク質の吸着である。HApは六方晶系に属し、その結晶のm面は正に帯電し、c面は負に帯電する。一方、骨の中のアパタイトは、c軸に配向、すなわちm面を多く露出している。従って、HApのm面とc面に吸着するタンパク質の違いが、その後の細胞レベルのイベントを制御している可能性がある。そこで本研究では、HApのm面とc面に吸着する血清タンパク質の種類・量・機能の違いをプロテオーム解析によって明らかにし、最終的にはHApの骨結合性発現機構をその結晶配向性とタンパク質吸着の観点から解明することを目的とする。 最終年度となる2022年度は、尿素を用いた均一沈殿法あるいは尿素とウレアーゼとの酵素反応により、c面を多く露出したHAp(c-HAp)およびm面を多く露出したHAp(m-HAp)を合成し、これら2種類のHApと配向性を制御していないHAp(i-HAp)に吸着する血清タンパク質のプロテオーム解析を行った。 その結果、m-HAp、c-HApおよびi-HApには、それぞれ38種類、33種類、24種類の血清タンパク質が吸着することが明らかとなった。この中から、i-HApには吸着しないが、m-HApあるいはc-HApには吸着するタンパク質を選び出し、それぞれについて文献等によって機能を検討したところ、ビタミンD結合タンパク質、トランスサイレチン、リアノジン受容体2、アポリポタンパク質E、ケラチンの5種類のタンパク質が骨伝導性に関与する可能性が見出された。また、PANTHERによる代謝経路解析やGene Ontologyによる細胞構成要素分類においても、m-HAp、c-HApおよびi-HApの間には違いがあることが分かった。
|