本研究は、18世紀スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームの道徳哲学と現代メタ倫理学に依拠しつつ、道徳判断(善悪・是非の判断)の心理的・言語的な本性について考察した。その成果として、第一に、道徳感情主義とされるヒュームにおいてさえ、道徳感情は言語によって規定されているという可能性を示すことで、道徳判断における言語の優位性を明らかにし、第二に、そのように言語ベースで成立する道徳判断には「客観的に指令的な性質」を対象に帰属させる機能が備わるが、現実世界にそのような性質は存在しえない、という可能性を示すことで、ヒュームの経験論哲学からある種の道徳的錯誤説が導き出されうることを明らかにした。
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