研究課題/領域番号 |
21K20549
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研究機関 | 兵庫県立工業技術センター |
研究代表者 |
酢谷 陽平 兵庫県立工業技術センター, その他部局等, 研究員 (40908456)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | PVDF / 低電圧制御 / 強誘電相 / 常誘電相 / 結晶相転移 / 分極配列制御 / 圧電性 |
研究実績の概要 |
本研究ではポリフッ化ビニリデン(PVDF)の常誘電II型結晶構造から強誘電I型結晶構造への結晶相転移と分極配列の低電圧制御を目指して、それを実現するための基礎研究と実験環境整備に取り組んでいる。本年度はPVDFスピンコート薄膜の作製条件の最適化と融液状態のPVDF薄膜に対する電圧印加を取り組んだ。PVDFスピンコート薄膜の作製条件の最適化については、スピンコート装置内への不活性化ガス導入による湿度の低減および使用している溶媒の沸点以上でのプレアニール処理を導入することで、溶媒乾燥に起因する薄膜のムラのない平滑なPVDF薄膜を作製することに成功した。融液状態のPVDF薄膜に対する電圧印加については、金属電極/PVDF/金属電極の積層サンドイッチ構造素子を作製し、PVDF薄膜を融液にするための加熱と固体膜にするための冷却の温度制御を行いながら電圧印加を行った。電圧印加を行った素子について、圧電アンプを用いることで圧電性の確認を試みた。応力の印加時と解放時に正負逆の出力信号を確認でき、また、素子の接続を逆にした際に出力信号の正負が反転した。これは常誘電相での静電容量の変化に起因する信号ではなく、強誘電相の圧電性に起因する信号であることを示している。PVDFの常誘電II型結晶構造から強誘電I型結晶構造への結晶相転移に要する電界の10分の1以下、PVDFの分極配列制御に要する電界の約5分の1程度の電界印加でPVDF薄膜の圧電性が発現するという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究として、PVDF薄膜に電圧印加を行った後の結晶相転移や分極配列方向といった薄膜構造評価で成果を出す予定としていた。しかしながら、電圧印加を行ったPVDF薄膜の赤外吸収スペクトルと電圧印加を行っていないPVDF薄膜の赤外吸収スペクトルの概形に大きな差が生じておらず、圧電性が発現したという実験事実と一致しておらず、これは当初予期していなかった。また、当初予想されたPVDF薄膜を融液にして電圧印加を行うことに起因する上部金属電極のダメージについて、スピンコート直後のPVDF薄膜内に残存する溶媒をできる限り除去するなど工夫はしているが、上部金属電極のダメージが生じてしまい、圧電性を確認する際に素子の接続を逆にした場合、出力信号の絶対値が異なるといった問題が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、PVDFの共重合体であるポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE))に材料を変更して研究を遂行する予定である。P(VDF/TrFE)はPVDFとは異なり、強誘電I型結晶構造が常温常圧で熱力学的に最安定構造であるため、薄膜構造の評価として考慮するポイントがPVDFに比べて少ないと考えられる。また、P(VDF/TrFE)はPVDFと比較して融点が低く、分極配列制御に要する電界が小さいため、融液に対して電圧印加を行う際の上部金属電極のダメージが小さくなると予想される。金属電極/ P(VDF/TrFE)/金属電極の積層サンドイッチ構造素子を作製し、印加電圧の値を変えた場合のP(VDF/TrFE)薄膜の結晶構造や分極配列方向、圧電性を評価することで、電圧印加条件の最適化を行う。本年度は圧電性の確認について、応力を印加するのみであったが、次年度は圧電性を定量的に評価できる測定セットアップの構築にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:機器購入業者のキャンペーン等より、購入金額が想定よりも少なくなったため。 使用計画:次年度使用額と翌年度分として請求した助成金とを合わせ、研究で生じた問題を解決するために必要な物品と圧電性を定量的に評価するための測定セットアップを構築するため物品の購入に使用する。
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