研究課題
本研究では、窒素還元酵素に固有な、Fe、Mo、S、Cからなるクラスター(FeMoco)について、その無機骨格の中心に存在するC原子の役割を物理的性質と化学的反応性の両面から理解することを目指している。この目的に従い、初年度である本年は、ターゲットとするC原子周りの部分構造、並びにC原子を有する金属-硫黄クラスターの再現を目指し、(a) 独自にデザインした多座配位子の合成、(b) ならびに鉄-硫黄クラスターへのC原子導入に取り組んだ。(a) 配位子合成では、提案段階で想定していたルートに従って合成を進めており、現在金属を捕捉するためのピラゾリル部位の導入を検討している。中間生成物であるホウ素化合物が非常に不安定であったため、単離精製に予想以上の時間を要したものの、現在検討している反応の前段階までは比較的良好な収率・純度で目的物を合成するプロトコルを確立している。(b) また鉄-硫黄クラスターへのC原子導入を目指し、ダブルキュバン型[4Fe-4S]クラスターとハロアルカンの反応を検討した。しかしながら、これまでのところC原子導入の明確な証左は得られておらず、反応は一方向へは進行せず、多数の生成物を与えたと考えられる。無秩序な条件下で鉄-硫黄骨格の変換を行った点が、C原子導入へとうまく制御できなかった理由であると考察している。よって、今後の研究ではこの点を踏まえてクラスターへ立体保護を導入しようと考えている。
3: やや遅れている
本研究のために新たにデザインした配位子の合成は、終盤まで進んでいるものの、目的物の完全な同定には至っていない。また、金属-硫黄クラスターへのC原子導入反応については、今年度の結果を踏まえて別アプローチによる検討をすすめる予定である。他方、金属-硫黄クラスターを用いた初めての触媒的窒素シリル化反応を論文化して投稿中であるなど、本研究で合成を目指す錯体やクラスターを用いた反応化学を行う上で一定の成果は得られており、検討に用いる実験基盤もすでに整えている。従って合成面での進捗にやや遅れが見られると判断した。
今後の研究では、多座配位子の合成をさらに推進し、早い段階で錯形成の検討を行う。上述の通り、金属の捕捉部位としてピラゾリル基を導入予定であるが、合成の難しさによっては異なる配位性部位(チオ尿素など)への変更も検討する。また、金属-硫黄クラスターへのC原子導入反応を目指して、嵩高い立体保護基を有するクラスター前駆体の合成を進めており、完了次第、さらにC源との反応や骨格変換反応への適用を試みる。
今年度合成に用いた試薬は、かなりの部分において所属研究室がすでに保有しているものを利用でき、また学会参加費として想定していた旅費に関する支出がほとんどなかったため、次年度使用額が生じた。繰り越した予算は、次年度参加を予定している国際学会への旅費と、合成実験を加速するための機器(遠心分離機等)の購入に充てる予定である。
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