研究課題
本研究では、自然界での窒素固定を担う酵素(ニトロゲナーゼ)の活性中心に着目し、この鉄、モリブデン、硫黄、炭素からなる固有のクラスター(FeMoco)がどのような構造的要素によって分子窒素を捕捉、還元することができるのか明らかにしようと試みた。当初の研究計画は、特にFeMocoの中心原子として存在する炭素(C)にフォーカスし、配位子デザインと鉄-硫黄クラスターへのC原子導入によりFe-C-Fe型の構造を再現するものであったが、いずれもこれまでのところ大きな成果は得られていない。一方で、金属-硫黄のフレームワークに着目して簡略化した構造モデルを用いて、クラスターによる窒素分子の捕捉に成功した。結晶構造解析や赤外吸収スペクトルなどの結果から捕捉された窒素の結合は弱まっていることが示唆されたため、触媒的な窒素の還元反応を検討したところ、シリルアミンを生成する反応(窒素シリル化反応)が進行した。この成果は、金属-硫黄クラスターを用いて、初めて触媒的な窒素還元を達成したものである。本反応は窒素分子を還元してアンモニアではなくシリルアミンを生成するため、酵素反応とは機構が大きく異なると考えられる。しかしながら、FeMocoと同様に、Sリッチな配位環境にあるFe原子が窒素還元能を獲得しうることを実証した点で意義深い。またここで達成した触媒回転数は既報の錯体触媒と比較しても高く、今後の検討により窒素分子から異なる有用分子への変換反応へも展開できる可能性がある。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
Nature
巻: 607 ページ: 86-90
10.1038/s41586-022-04848-1
Bulletin of the Chemical Society of Japan
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10.1246/bcsj.20220143
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-07-07