研究課題/領域番号 |
21K21311
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
朱 心茹 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (90909285)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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キーワード | 書体研究 / 読字困難 / 書体カスタマイズシステム / 読字支援 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1) 読字困難をはじめとする多様な特性を持つ読者が自身にとって読みやすい書体を作成できる書体カスタマイズシステムを開発すること(書体カスタマイズシステムの精緻化)、(2) 当該システムを用いて読者の特性と書体の特徴の関連を明らかにすること(読者の多様な特性と書体の特徴に関する分析)、(3) 言語と文字体系の特徴を体系的に分析した上で、書体カスタマイズシステムを東アジア言語をはじめとする多言語へ拡張すること(書体カスタマイズシステムの多言語拡張)である。 2022年度は,「読者の多様な特性と書体の特徴に関する分析」を主に行った。2021年度に得られた書体のスケルトンデータと3種類の代表的な書体形状のパラメータに基づき,以前の研究で開発した書体カスタマイズシステムを用いて3種類の新書体を開発した。これらの新書体を用いて読者の読み書き特性と書体の特徴の関係を分析するために,ウェブ上で質問表調査を行った(東京工業大学「人を対象とする倫理審査委員会」許可番号:2022108)。質問表調査では,5180件の有効回答が得られた。質問表調査の分析結果からは,読み書き特性が異なる読者にとっては読みやすい書体の特徴は異なることが示唆された。この結果を,2023年3月に開催された情報処理学会全国大会で発表した。 「書体カスタマイズシステムの精緻化」と「書体カスタマイズシステムの多言語拡張」関しては,ニューラルネットワーク(Generative Adversarial Network)と細線化アルゴリズムによるスケルトン抽出を試行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は,これまでの研究結果に基づき,大日本印刷株式会社,ファシリティジャポン株式会社,株式会社リアルタイプ,株式会社イワタ,NPO法人EDGEと共に「じぶんフォント」という共同プロジェクトを立ち上げた。長期的な視点から見ると本研究の開発基盤と研究協力者募集基盤の強化という利点があるが,短期的には計画外の作業が多く発生したため,本来の研究計画からは多少の遅れが生じている。約5000人を対象とした質問表調査は実施できたものの,当初計画していた約50名を対象とした実験の開始が遅れている。 具体的には,書体カスタマイズシステムを用いた対人実験のためのシステムの開発に遅れが生じたため,2022年5月に開始予定であった実験の開始が2023年5月になる見込みである。また,スケルトン抽出のアルゴリズムの精緻化が遅れているため,東アジア言語の書体スケルトンデータの作成を開始できていない。研究期間を1年延長し,対人実験と書体の多言語拡張を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には,「読者の多様な特性と書体の特徴に関する分析」と「書体カスタマイズシステムの多言語拡張」に取り組む予定である。「読者の多様な特性と書体の特徴に関する分析」では,書体カスタマイズシステムを精緻化し,これを用いて対人実験を行うことで,書体の形状的特徴に対応するパラメータと読みの特性に関する情報を収集し,書体の特徴と読みの特性の関係を明らかにする。同時に、読字困難の状況把握を目的とした半構造化インタビューを行う。すでに60名程度の実験協力者を募集している。2023年5-12月に継続的に実験を実施する予定である。「書体カスタマイズシステムの多言語拡張」では、スケルトン抽出アルゴリズムの開発と多言語における書体の作成と分析に関する文献調査を並行して行う。簡体字・繁体字・ハングル書体を用いて書体スケルトンデータを作成し、書体カスタマイズシステムの多言語拡張を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究に遅れが生じており,対人実験を開始していないため,人件費・謝金を支出していないことである。また,今年は国内学会で1件の発表を行ったが,開催地が申請者の居住地だったため,旅費も発生しなかった。次年度は,実験参加者への謝金,リサーチ・アシスタントの人件費,発表旅費を支出する予定である。
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