研究課題/領域番号 |
21KK0025
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三嶋 恒平 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90512765)
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研究分担者 |
會田 剛史 一橋大学, 経済学研究科, 准教授 (40772645)
大塚 啓二郎 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 特命教授 (50145653)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | スピルオーバー効果 / 海外直接投資 / 国際経営論 / タイ / 日本人技術者 / 組織能力 / 自動車産業 / 発展途上国 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は発展途上国における海外直接投資(FDI)が発展途上国の地場系企業に与える影響について考察することにあった。2023年度の主たる研究実績は次の3点であった。 第1に、研究成果の社会還元である。2023年11月22日、タイ・バンコク市で開催された東南アジア最大規模の機械工具展METALEXにおいて「The Growth of Thailand's Automotive Industry in a Time of Transformation」というシンポジウムを開催した。これは本プロジェクトが主催し、JETROバンコク事務所、タイ自動車部品工業会(TAPMA)が共催し、TAPMAメンバー120名超が出席した。本プロジェクトメンバーである大塚氏は本研究プロジェクトから得られた知見を踏まえて、タイ自動車産業の発展に向けた取り組みについて講演した。出席したTAPMA会員はタイ自動車サプライヤー企業のトップマネジメントであり、彼らにFDIの正確な理解を促し、その重要性について示唆を与えた。 第2に、タイにおける質問票調査の回収を概ね完了させたことである。本研究が計量分析を通じて説明したい点は多様な企業の「業績」であり、業績指標として販売額、労働生産性、粗利潤やその成長率を用いていく。これら情報は既存データにはないため、質問票調査により自らデータベースを構築する必要があった。現在、約200社から質問票を回収し、今後、これに基づいた実証分析を行っていく。 第3に、仮説探索的な定性的論文の執筆に向けて、国際学会での報告を申請し、受理されたことである。本研究はFDI論に関する実証研究に加えて、国際経営研究における定性的な研究も志向していることに一つの特徴があるが、そうした定性的な議論の深化に向け、国際経営(AJBS)や戦略論(POMS)の国際学会で報告申請が受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況として「やや遅れている」を選択した理由は、質問票回収の遅れにある。 本研究は、多様な企業のパフォーマンスを検討するため、販売額、労働生産性、粗利潤やその成長率、顧客中の外国系企業の割合など一般には企業外に出さない情報を質問票で回答として求めた。そのため、調査対象に質問票を大量配布しても回答は得られないと考えられた。そこで、本プロジェクトは調査対象との信頼関係を構築する必要に迫られた。このため、本プロジェクトは調査対象の母集団であるTAPMAの会長や幹部らと漸進的に信頼関係を構築した。2023年度は数ヶ月に一回、対面での議論交換の場を設け、こちらの調査意図を説明するとともに、既述のシンポジウムの開催によりタイ自動車部品企業が求めている情報提供を行った。この結果、2023年度半ばにTAPMAから全面的な協力を得られるようになった。こうした信頼構築にあたっては、タイの海外共同研究者であるチュラロンコン大学のChadatan氏の支援が大きな力となった しかし、本格的な質問票回収はシンポジウム開催後である2023年12月以降にずれこみ、2023年度中に回収を完了させることができなかった。そのため、本プロジェクトは2023年度中に質問票に基づいたパネルデータの作成とその実証分析を完了させることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は次の3点である。第1に、質問票の回収次第、パネルデータを作成し、FDIによる情報のスピルオーバー効果について統計分析を行うことである。既存のFDI研究が仮定するように、情報のスピルオーバーが重要であるとすれば、部品サプライヤーは、どの企業に部品を納入するかに関わらず、有用な情報を入手できていると想定されるから、顧客の特性は意味のある説明変数にはならない。それに対して、特定の外資との取引関係が重要であることが実証されれば、「外資による部品企業の能力向上」仮説が支持されると考える。 第2に、これまでの訪問調査でのインタビューや工場見学を踏まえて、国際経営学や経営戦略論に関して論文を執筆することである。本研究は途上国におけるFDIから地場系企業への情報の伝達について、情報の創出元、受け手、媒介役に関する事例研究を行い、実態を明らかにするとともに、上記の計量分析では不十分な部分を質的アプローチによって補完し、そのための枠組みとしてダイナミック・ケイパビリティ論を視角としていく。この成果を関係する学会で報告していく。さらに、海外共同研究者であるTaussig氏、JC氏とも論文を共同執筆しながら、トップジャーナルへの掲載を目指す。 第3に、日本でのシンポジウム開催を通じた研究成果の社会還元である。上述の実証分析と事例研究から得られた知見を、日本の研究者や実務者に向けて報告し、発展途上国の地場系企業の能力向上と産業発展に対するFDIの貢献を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に若手研究者である會田氏がアジア経済研究所から一橋大学に異動した。會田氏は2023年度に海外に長期研究滞在する予定であったが、異動のため、キャンセルせざるを得なかった。そのために予算計画との違いが生じた。會田氏は2022年度にすでに短期で海外研究を行っており、これに加えて2024年度に短期研究滞在を行うなどして、海外研究滞在機会としていく予定である。
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