研究課題
国際共同の枠組みによって,新たな「光と電波を用いた広域観測網」を構築し,オーロラと降下電子の双方を広い領域で面的に観測することを目的として,フィンランドへの電波観測機器の設置作業を行った.リオメータの設置については,海外研究協力者であるソダンキラ地球物理観測所(Sodankyla Geophysical Observatory: SGO)の Antti Kero 博士と連携し,2022 年 10 月にフィンランド北西部のキルピスヤルビに 1 式の多周波リオメータを設置し,観測を開始した.キルピスヤルビの電磁環境は良好で,機器の設置後約半年にわたって継続的に良質のデータが取得できている.また,VLF 受信観測についても,SGO の Jyrki Manninen 博士のサポートを受け,2022 年 10 月にフィンランド南部のオウルヤルビに機器の設置を行うことができた.さらに,2023 年 10 月にはオウルヤルビに 2 式目の多周波リオメータを設置して観測を開始している.オウルヤルビの電磁環境は良好で,質の良い自然電磁波の計測を行うことができている.すでに北欧 5 地点において実施している高感度カメラによる光学観測については,2023 年冬季シーズンの観測を継続した.欧州非干渉散乱レーダー(EISCAT レーダー)による特別実験も実施し,ジオスペースからの電子降下に伴う低高度電離現象の事例を多数得ることができている.今後観測を開始するリオメータや VLF 電波観測,化学シミュレーションを組み合わせることによって,オーロラに伴うジオスペース電子降下の時空間変動,オーロラの形態による特性の違い,大気への影響を定量的に明らかにすることが期待できる.
2: おおむね順調に進展している
北欧 5 地点における光学観測を継続し 2022 年度冬季シーズンにも良好なデータを得ることができている.また,2022 年 10 月に実施した機器設置作業の後,キルピスヤルビ,オウルヤルビにおける 2 式の多周波リオメータ観測,オウルヤルビにおける VLF 電波観測を問題なく継続することができている.特に,2023 年 3 月,および 2024 年 3 月に発生した磁気嵐の期間中に,リオメータにおいて放射線帯電子の降下を示唆する電波吸収を検出することに成功している.さらに,VLF 電波観測では同時に磁気圏の波動現象を観測することができている.これらのデータと欧州非干渉散乱レーダーのデータを組み合わせることで,ジオスペースからの電子降下現象を多角的に解析することが期待できる.また,これらの日本が主導する観測については,NOM の枠組みのもとでプロジェクトの内容が共有されており,今後の共同研究に関する準備も整っている状況である.これらのことから,本計画はおおむね順調に進展していると言うことができる.
北欧 5 地点における光学観測を継続し,研究期間中にさらに 2 回の「冬季集中観測」を実施する.観測の実施やデータの回収は,NOM との連携のもとに,代表者の細川および大学院生が毎年現地に出張することによって行う.前年度までに計画していた電波観測機器の設置は完了したため,今後は得られたデータの解析に注力する.特に,データから降下電子エネルギースペクトルに関する情報の抽出を行う.VLF 受信機については,オウルヤルビにおける定常観測を継続する.得られた波動データからサイクロトロン共鳴の条件を仮定して降下電子エネルギーを算出する.SGO の Kero 博士,Turunen 博士を中心に,電子降下による HOx, NOx, オゾンなどの大気微量成分の生成,消滅過程を再現する化学反応シミュレーションを実データを入力にする形に整備する.それらに基づいて,リオメータや VLF 観測からのインプットに基づいた計算を実施し,大気微量成分の変動を再現し,粒子降下の影響を評価する.
多周波リオメータのフィンランドへの設置を行うための出張を,スケジュールの都合で別プロジェクトの用務と連続させる形で実施したため,旅費に残額が生じた.翌年度以降,成果発表のための旅費として使用する予定である.
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
Journal of Geophysical Research: Space Physics
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