研究課題
本研究は発癌に伴うmiRNAの発現異常が生じる分子機構とそれが及ぼす生物学的効果を解明し、新しい治療標的を同定してその治療法を開発することを目標としている。平成22年度では、癌種によって発現動態が著しく変動するmiR-199aにおいて特に著しい成果があったので報告する。ヒトのエピジェネティカルな制御で中心的な働きをなしているクロマチン構造変換因子SWI/SNF複合体は10数個のサブユニットからなり、触媒サブユニットとしてBrmあるいはBRG1のどちらか一方を一分子のみ有している。これまでに我々は、Brm遺伝子が、いくつかのヒトがん細胞株あるいはがん組織において活発に転写されるものの、転写後抑制を受けてBrmタンパク質の発現が欠失すること、またこの発現欠失はがんを増悪化することを示してきた。本年度我々は、miR-199a-5pと-3pの2つのmiRNAが主としてこの転写後抑制を担うことを示した。さらに、これらを産生する主なヒト遺伝子座であるmiR-199a-2遺伝子は、転写因子Egr1によって転写の活性化を受けること、またBrmはEgr1遺伝子のプロモーター上に動員され、その発現を負に制御することによって、miR-199a-5pと-3pの産生量を低下させることも示した。この成果から、エピジェネティクス制御の要となるクロマチン構造変換因子が、miRNAの発現制御を介したダブルネガティブフィードバックループにより制御されることを示している。実際、複数種のヒトがん細胞株を比較検討したところ、一般にmiR-199a-5p,-3pとEgr1の発現が高い細胞株では、Brmの発現が低く、逆にmiR-199a-5p,-3pとEgr1の発現が低い細胞株では、Brmの発現が高い傾向であることを示し、多くのがん細胞株をこれらの発現様式により大きく2種に分類可能であることを示した。
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