研究概要 |
これまで十数種類のmiRNAについてヒト癌部でmiRNAの発現異常が観察されることから癌の有力な遺伝標的、また診断マーカーと考えられる。本研究ではこうした発癌に伴うmiRNAの発現異常が生じるいくつかの分子機構を解明し、新しい治療標的の同定とその治療法の開発を行うことを目標とする。本研究では、miR-199aが形成する遺伝子制御ネットワークの重要な骨格を解明し、一般にmiR-199a-5p, -3pとEgr1の発現が高い細胞株では、Brmの発現が低く(タイプ1)、逆にmiR-199a-5p,-3pとEgr1の発現が低い細胞株では、Brmの発現が高い傾向があることを示し(タイプ2)、これらの発現様式により多種のがん細胞株を大きく2種に分類可能であることを示した。BrmがmiR-199a-5pと-3pの標的であること、miR-199a-2遺伝子は転写因子Egr1により活性化されるが、一方Egr1の発現はBrmにより負に制御されることから、miR-199a/Brm/Egr1が形成するdouble negative feedback loopによる分子スイッチにより細胞株が2種のタイプに分かれているものと考えられる。 一方miR-15/16のmiRNAクラスターは、慢性白血病で欠失や発現低下が見られる癌抑制活性をもつmiRNAである。我々は、腸の特異的なマーカーであるCdx1とCdx2に注目して、Cdx1のexogenousな発現がCdx2をpost-transcriptionalに抑制すること、またこの抑制には、Cdx1の発現により発現誘導されるmiRNA,miR-9,miR-15/16,miR-22により説明できることを示した。この結果Cdx1,Cdx2という同じファミリーに属する転写因子のホメオスタシスの維持の機構の一側面を明らかにした。
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