研究概要 |
まず,前年度開花が遅れていたフリージアについては,ヘッドスペース吸着・ガスクロマトグラフィー(HA-GC)法により香気成分を分析し,'エレガンス','アラジン','オベロン'における香り特性のちがいがリナロールと他のモノテルペノイドとの発散比率の違いに起因していることを明らかにした.また,品種間の交配によりF1種子を得て,発芽させることに成功した.バラについては,芳香性品種の'チェラブカップ'を用いてペンタン抽出による内生量の分析を行ったところ,モノテルペノイドはいずれも花弁で多量に検出され,がく片および葉では検出されなかった.さらに,がくが開き始めた堅い蕾から花弁がゆるんだ花蕾の段階にかけて外側から内側の花弁に向かってモノテルペノイドが合成・蓄積されていくことが明らかとなった. 香りの官能検査とヒトの心理的・生理的反応については,バラ切り花を用い,前年度の方法を改善してPOMSや脳波の計測等を実施した.バラの香りを嗅がせた際の疲労回復効果には個人差が大きく,有効に作用する場合とそうでない場合があった. バラのモノテルペノイド合成酵素遺伝子の探索では,既知のモノテルペノイド合成酵素遺伝子と相同性の高い2つのmRNAの部分配列が'イブカノン'から得られた.全長配列を決定し,これらをRaMTS1, RsMTS2として系統樹を作成した.RhMS1は被子植物のモノテルペノイド合成酵素遺伝子群であるTps bグループに,RhMS2は被子植物の非環式構造のモノテルペノイド合成酵素遺伝子群であるTps gグループに分類された.また,rea1-timePCRによる発現解析の結果,両遺伝子の発現はがく片が開きはじめた堅い蕾の花弁において最も高く,開花とともに低下した.さらに,両遺伝子ともに非芳香性品種と比較して芳香性品種で発現量が高かった.今後RhMTS2を中心に機能解析を進めることとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
香気成分の合成・蓄積や発散特性の解析は計画以上に順調である.また,モノテルペノイド合成酵素遺伝子についても発現解析に基づいて有力候補が検索されている.ただし,フリージアの交配実験がやや遅れ気味である,また,香りの発散制御に関わるβ-ガラクトシダーゼを探索する適切な実験系が構築できておらず,この部分については研究の遂行を断念せざるをえない.平成23年度には,遺伝子探索に必須の現有実験装置であるDNAシークエンサーのレーザー装置が故障し,研究が約2か月停滞した.このレーザー装置の交換を行った関係で,当初計上していなかったその他の費目での支出が多くなっている.
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今後の研究の推進方策 |
バラのモノテルペノイド合成にターゲットを絞り研究を展開する方向で,これまでに探索されたモノテルペノイド合成酵素の候補遺伝子の内,発現解析の結果から可能性の高いRhMTS1について,大腸菌の発現系を用いて実際にこのタンパク質が機能するかどうかの確認を行う.加えて,花弁のcDNAライブラリーを構築することで,モノテルペノイド合成酵素遺伝子をはじめとする非メバロン酸経路関連の遺伝子の探索を継続する方向で研究を展開・推進する.
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