研究概要 |
Azoxymethane(AOM)/dextran sulfate sodium salt(DSS)誘発性大腸炎・発癌モデルを解析した結果、これらの酵素を含む様々なグルコース代謝経路の制御因子の発現の亢進が、腫瘍組織及びその周辺の炎症組織で観察された。この炎症誘発腫瘍の発生におけるグルコース代謝の役割を解析する目的で、解糖系の阻害剤を投与して癌化への影響を調べた結果、解糖系阻害剤により全く腸炎が起こらないこと、その機構は炎症性サイトカイン受容体の高マンノース型の糖鎖修飾が阻害されることでIL-6,TNF-α,IL-1等の炎症性サイトカインシグナルが抑制されることを見いだした。更に、これらの炎症性サイトカインが関わる敗血症や関節リウマチのモデルの発症もこの解糖系阻害剤によって抑えられることを見いだし、現在論文を投稿中である。これと平行して、炎症がどのようにして癌化を誘発するのかを解析した結果、DSS腸炎を発症した大腸上皮ではアドリアマイシンを投与しても、p53の活性化、CDK:抑制因子p21の発現誘導は起こるにも関わらず、細胞周期の停止を引き起こさないことを見いだした。この現象を更に解析した結果、p21の核への集積が、炎症反応によって抑制されること、この現象は解糖系の阻害によって起こらないことを見いだした。従って、癌遺伝子が活性化した細胞はp53依存性に細胞分裂老化が誘導されて排除されるが、炎症が起こっているとこの排除機構が働かずに、増殖することが可能となり、そのことが癌化につながることが推測された。現在、その分子機構を解析しており、炎症とそれによって引き起こされるグルコース代謝の亢進による癌化の誘導機構を明らかにしていくことを計画している。
|