本年度は本科研費研究の最終年度にあたる。昨年度までに行われた中国各地における公園調査に加え、日本の公園の実情も加味した「公園の文化的側面」と公共性の諸相の相互関係を明らかにすることを目指した。そのため、調査は主として昨年度までの調査を補うための追加調査とし、関係性の不明確だった点をより明らかにすることに注力した。 公園には過去の偉業を記念するなど、「記念性」の性質があるが、その記念性はイデオロギーに大きく影響を受ける。公園内に設置される銅像なども、設置当初の意図を超えて時の為政者に利用されたり、撤去されたりする。こうした記念性のもつ流動的な性質は、歴史的遺産の顕彰のような形で地域の暮らしに直接影響を及ぼす場合もある。中国青島市八大関地区のように、かつてヨーロッパ列強国の邸宅が立ち並んでいた所が、軍に接収され、退役軍人の住まいになったかと思うと、その後歴史的景観を守るために公園化が図られた場合などでは、当該地域の居住者が公園化そのものによって生活を脅かされる事態に遭遇することになる。 また新たな公園造成が、いわゆるジェントリフィケーションの名目として使用される場合もある。北京市はオリンピック開催前からの著しい人口流入に適応するために市域の拡大が図られてきたが、その一方で市周辺の村々では集団移転を余儀なくされる場合も数多く見受けられた。こうした集団移転の中には、市郊外に公園を造ることを名目とした場合もあった。人びとの暮らしを豊かにするために造成される公園によって、慣れ親しんだ生活の場所を突然奪われる事態が、現在もなお続いているのである。 以上のように、公園と人びとの暮らしとの関係には、相補的な側面もあるが、敵対的と見えるような側面も存在する。本年度はやや後者に重きを置いて補足調査を行い、その実態と、そうした状況を支える関係性について考察を行った。
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