パソコンを利用した臨床場面で利用可能な高精度反応時間計測システムを開発し、我が国はもとより世界的な利用を実現する目的で、本年度は、以下の研究開発を行った。 (1)新しい反応時間課題の開発:脳損傷患者の注意障害の評価、ならびに自動車運転評価のために4種類の新しい反応時間課題を開発した。(2)アルバータ大学での実験環境の整備:開発した高精度反応時間計測システムをアルバータ大学リハビリテーション医学部作業療法学科で利用するために、製作した高精度反応時間計測のハードウェアをアルバータ大学で準備したコンピュータに設置するとともに、利用方法に関してアルバータ大学の担当者のトレーニングを行った。(3)健常データの収集:札幌医科大学作業療法学科の学部学生と大学院生21名、研究協力関係にある臨床現場の関係者9名、アルバータ大学リハビリテーション医学部作業療法学科の大学院生72名、を対象とした実験を行い、各種の反応時間課題の健常データを収集した。(4)患者データの収集:注意障害を評価する患者4名、自動車運転評価をする患者30名を対象に各種の反応時間課題のデータを収集した。そして、健常データと患者データの比較結果と既存の神経心理学検査や自動車運転の路上評価の結果と比較して、新しく開発した反応時間課題の有効性を評価した。 以上の研究を通して、本研究課題で開発した高精度反応時間計測システムの容易な利用と安定した動作を確認することができ、コンピュータや機器に詳しくない臨床現場の医療従事者でも十分に活用できることが示された。また、今後更なる患者データの収集と検討は必要であるが、新しく開発した反応時間課題は、既存の評価方法に比べて、客観的な結果を容易に得られ、臨床現場で有効に活用可能なものであることが示唆された。
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