研究課題/領域番号 |
22500780
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
新保 寛 藤田保健衛生大学, 藤田記念七栗研究所, 教授 (10142580)
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キーワード | アロエエモジン / Apc遺伝子変異Minマウス / デキストラン硫酸ナトリウム / 大腸腫瘍 |
研究概要 |
本邦で健康食品として普及しているキダチアロエを摂食すると、大腸で微量のアロエエモジン(AE)が産生される可能性がある。このAEは生理活性が強くin vitroでは抗がん作用などが多数報告されているが、in vivo実験の報告はほとんど見られない。そこで初年度(平成22年度)はまずAEが産生される可能性がある大腸での抗炎症作用の検討として、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス潰瘍性大腸炎モデルを用いAE混餌投与による実験を行った。その結果、数回の異なる条件での実験では、何れの実験においてもAEによる抑制効果は見られなかった。しかし、AEは上述の作用とは別に懸念されている細胞増殖作用による大腸炎促進作用もいずれの実験でも見られなかった。 平成23年度は、新たに家族性大腸腺腫症モデルのApc遺伝子変異Minマウスを用いた2つの実験系で腸管ポリープ形成に及ぼすAEの抑制効果の有無を検討してきた。実験1:Minマウスの腸ポリープに及ぼすAEの影響。実験はPerkinsら(2002)の報告に従って行った。5~6週齢の雄MinマウスにAE混餌(5,10 ppm)を12週間投与した。その結果、5 ppm AE投与群で大腸腫瘍数の有意な抑制効果が見られた(小腸腫瘍では有意差なし)。実験2:DSS誘発炎症刺激によるMinマウス大腸発がんに及ぼすAEの影響。実験1における大腸腫瘍抑制効果を踏まえて、本実験を現在進めている。実験はKohnoら(2007)の報告に従って行っている。10週齢雌Minマウスに、最初の1週間1%DSS混水を与え、同時に対照群に基礎飼料、実験群にはAE混餌(5 ppm、50 ppm)を5週間自由に与えている。途中結果としては、5 ppm AE群と50 ppm AE群でともに大腸腫瘍を抑制する成績が得られている。もし、全実験が終了し、明確な大腸腫瘍の抑制が得られたら、その後は抑制機序を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度(平成22年度)は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウス潰瘍性大腸炎モデルを用いアロエエモジン(AE)混餌投与による実験において、潰瘍性大腸炎を抑制することは見いだせなかったが、一方でAEが潰瘍性大腸炎を促進することもなかった。平成23年度は、Apc遺伝子変異Minマウスを用いて、まず大腸腫瘍を5 ppm AE混餌投与群で有意に抑制することを見いだし、その後DSS誘発炎症刺激によるMinマウス大腸発がんに及ぼすAEの影響を調べる実験では、まだ途中結果であるが、5 ppm AEと50 ppm AE混餌投与群でともに大腸腫瘍の抑制傾向を示す成績が得られているが、現時点では少数例のため、さらに例数を増やして抑制効果の有無を検討している。抑制効果が明確に得られたら、その分子機序も明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究の完成年度として、AEと類似化学構造を有するエモジン(EM)を用いて、Minマウスの腸管腫瘍(特に大腸腫瘍)に及ぼす影響をAEと比較しながら検討したい。AEとEMはともに植物由来のアントラキノン類であり、様々な薬理作用が報告されているが、一方でこれらの成分およびそれらを含む植物抽出物を緩下剤として長年継続的に使用した場合、大腸発がんを促進する懸念も報告されている。しかし、今回の申請者らが取り組んだ一連の動物実験では、少なくとも低用量のAEは大腸発がんを促進する懸念は少なく、むしろ低濃度では大腸発がんを抑制する可能性が示唆された。この成績と米国で検討されたアロエベラの発がん性実験成績や本邦でのキダチアロエの毒性試験報告を比較しながら、AE(EMも含め)の腸管に及ぼす影響を明らかにしたい。
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