研究代表者は、本研究が帝国論、中央ユーラシア研究、イスラーム地域研究など様々な研究プロジェクトと連動することを企図しているが、本年度はこの点で著しい成果が見られた。5月には、フランスの研究者がヴォルガ・ウラル地域の多宗教に関する国際会議をニジニ・ノヴゴロドで組織し、そこに招待された。その成果については、出版計画がある。7月には、フランスとアメリカの研究者と協力して、国際中東欧研究学会(ICCEES)の世界大会で、宗教とナショナリズムに関するパネルを組織した。11月には、研究代表者自身がアメリカの気鋭の研究者に呼びかけて、北米のスラヴ・ユーラシア学会(ASEEES)で、ロシア帝国の建設・運営における非ロシア人の仲介者の役割に着目したBuilding the Russian Empire:A View from the Ground Floorというパネルを組織し、立ち見の出るほどの聴衆を集め、大いに議論を喚起した。12月には、人間文化研究機構のプログラム「イスラーム地域研究」の第3回国際会議でも報告する機会が与えられた。そこで出会ったフランスの研究者とは、今後、メッカ巡礼の共同研究をすることになった。その成果は、早ければ、来年度には出版される。 本年度は、上記に加え、他の共同研究でも研究会の組織や報告を依頼された都合上、ペテルブルグの文書館での調査日程を確保できなかった。とはいえ、前述のニジニ・ノヴゴロドでの会議の際には、カザンに立寄り、カザン国立大学図書館の稀少本・手稿部で史料収集を行った。また、モスクワでは二度、国立図書館分館(ヒムキ)で、帝政期のタタール語文献コレクションの調査を行い、本研究に関連する博士論文を閲覧した。とりわけ、カザンとモスクワで集めたタタール語文献は、従来ほとんど知られていないものであり、これらを読んでみると、メッカ巡礼が欧露のムスリムに与えた様々な影響を深く理解する上で、極めて貴重であることが分かった。
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