日本を焦点とする東アジアを軸に、広義の雨(雨・霞・雪・霧等々)と陰的気候(冷気・夜分・湿気)を扱う藝術や思想を対象に、気象の美学を研究した。視覚中心主義ではない環境体験が美的伝統となっている東アジアでは、自然を花月のごとき景物中心に享受するだけでなく、夜雨や夜梅のごとく気分的に感受することを、事例の検証を通し解明した。藝術作品から輪郭の定かでない気象・天候へと研究領域を拡大することは、必然的に理論枠の変革を促す。その意味で、本研究は、芸術中心に展開してきた西欧近代美学の改革を担う環境美学や雰囲気の美学の推進であると共に、その基礎理論革新への努力でもある。この間、西欧近代美学の限界の指摘と東西の美学の対話の促進を説いてきた。
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