研究課題/領域番号 |
22520204
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中島 国彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00063785)
|
キーワード | 日本近代文学 / 日本美術史 / 日本近代史 / 比較文学 / 美学 |
研究概要 |
平成19・20年度の科学研究費での研究の発展として、昨年度に引き続き、明治・大正・昭和文学に現れた「風景表象」のうち、下層社会を背景とした作家・作品を主に取り上げ、分析した。都市の下層社会は、近代においては公害などの社会矛盾としても現われている。今年度は、足尾鉱毒問題に関係した木下尚江の若き日の資料分析に特に力を注いだ。あわせて、「風景表象」研究の体系化にも留意した。 今年度の研究の成果を、以下に記す。 (1)木下尚江資料の研究として、早稲田大学文学学術院所蔵「木下尚江資料」の整理と翻刻・公開を進める中で、明治20年代・30年代の自筆資料を分析し、尚江の社会矛盾への眼を考えた。活字化とともに、画像データベース構築・増補に努力した。 (2)フランスの研究者との共同研究「記憶の痕跡」に参加、戦中・戦後の「風景表象」が、どう言語化されるかを、永井荷嵐や志賀直哉の例から分析、論文化した。 (3)近代の「風景表象」で特異な位置を占めている、京都の「風景表象」を分析するために、実地踏査を試み、まだ十分紹介されていない京都府立総合資料館の「吉井勇資料」の調査を試みた。論文化が済んでおり、近く発表される。 (4)「風景表象」には、現実に密着した「風景」と、イマジネーションの中の「風景」がある。後者の例として、小川未明とラフカディオ・ハーンとの関係を取り上げ、論文化した。 (5)「風景表象」の諸問題を、学部の援業(早稲田大学)で取り上げ、これまでの成果を講義の形で披露した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「風景表象」の問題は多岐にわたっているが、「下層社会」に焦点を絞ったのは賢明だったと思う。『最暗黒の東京』の注釈は次年度に持ち越されたが、木下尚江を焦点とした明治の文学者たちの模索を、資料的に明らかにできたのは大きな成果である。あわせて、東京以外の都布(今年度は京都)の問題にも眼を広げ、「風景表象」の重層性を分析できたのはうれしい。
|
今後の研究の推進方策 |
この数年推進した木下尚江資料の研究を、来年度は一段落させたい。そのためにも、来年度のポイントを、尚江と田中正造の関係に置きたいと思う。未公開の田中正造資料も把握しており、その公開にも留意する。懸案の『最暗黒の東京』の注釈の完成は、ぜひ成し遂げたい。「風景表象」の体系化のために、さらに多くの文学者・作品を論じる予定である。
|