研究課題/領域番号 |
22520306
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
天野 惠 京都大学, 文学研究科, 教授 (90175927)
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キーワード | イタリア文学 / トスカーナ語 / ベンボ / ルネサンス / 言語問題 / 詩作法 / 文体論 / 『俗語論』 |
研究概要 |
本研究はルネサンス期のイタリア詩作法に関する包括的研究の第一段階として計画されたものであり、当面の目標はイタリア文学語の方向を決定付けたピエトロ・ベンボ『俗語論』Prose della volgar linguaの成立過程を明らかにすることである。それは抽象的な言語論争のレベルにとどまることなく、通常《ベンボ規範》と呼ばれる、後のイタリア語のあり方を決定づけた文学用文法の形成過程を可能な限り具体的かつ微視的に明らかにすることを目指すものであり、ベンボによってそれぞれ詩と散文のモデルと位置づけられたペトラルカ『カンツォニエーレ』とポッカッチョ『デカメロン』からの豊富な引用によって、実際の用例・用法が示された第3巻に的を絞って調査のベースとなる資料整備を行なうのが平成23年度の主たる目標であった。 具体的には、年代の異なる3つの版と初版直前の手稿という計4種のテキスト、すなわち(1)Tacuino版1525、(2)Marcolini版1538、(3)Torrentino版1549、(4)Vaticano Latino 3210をデジタル情報化するとともに、それらテキスト間に見られる異同の情報を、フォントの色を違えることによってその中に盛り込む作業、および本文の翻訳作業を行なったものである。翻訳は日本語へのものであるが、14世紀のイタリア文学語を解する専門研究者のみを対象とする特殊なものであり、当初はとりわけ動詞の活用形に関する論述の難解さを整理・克服することを主たる目的として始めたものの、補語人称代名詞に関しても極めて有効であることが判明し、実際にはこうした方法をとることなくベンボの意図するところを正確に理解・記述することは不可能であることが明らかとなった。 なお、この翻訳にはペトラルカ、ポッカッチョを中心とする引用の出典情報を脚注としてではなく本文中に記載してあり、既にデジタル化の完了したテキスト間の異同情報をも織り込むことによって、今後に予定している調査活動のための有効なツールとなるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一に『俗語論』第3巻の翻訳を完成させることができなかった。Dionisotti版の章区分の全79章中、12章分が未完成であり、これはおよそ85%の達成度を意味する。第二に、ベンボの校訂になる1501年のアルドゥス版『カンツォニエーレ』に付されたあとがき(通称Fascicolo B)の詳細な分析によって、この段階におけるベンボの《規範》意識がどの程度までその形を採っていたのかを検証する作業を行なう予定であったが、時間的な問題から思ったように進めることができず、成果の発表にも至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
主として時間的な制約から研究の進捗に若干の遅れが出ているものの、その内容や作業の方法には修正の必要を感じていない。とりわけ、資料整備に関してはほぼ予定した段階にまで到達しており、これまでの作業の遅れが今後の研究に悪影響を及ぼす可能性が低いからである。従って、当初平成23年度に済ませる予定であった作業の一部を次年度に行なうことになり、計画全体が後にずれ込む結果になるとしても、それ以外の質的ダメージは生じないものと予想される。
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