近代市民社会とともに市民的公共圏が成立しつつあった18世紀ドイツにおいて、文学も公共的性質を持つようになったが、それは多数の人々に対して開かれているという意味での「公開性」と、社会や共同体の構成員の共通関心として共有されているという意味での「共有性」という二つの性質を持つものであった。また、それによって生じた文芸的公共圏は、ハーバーマスが言うような理性的討議による合意形成を目指すという側面だけではなく、元々は私秘的なものであった感情を公開して、共感作用による感情の共有を目指すという側面も持っており、文学は感情伝達のメディアとしてそのような感情の公共圏を形成する役割を果たしていたのである。
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