医療ネグレグトが好発する新生児医療の状況について、日本を代表する小児科学研究者に対して聴き取りを行い、以下のような知見を得た。 (1)そもそも通常分娩では妊婦が保険診療上は患者ではないうえに、さらに新生児が妊婦の付属物として扱われ、その医療における位置付けが曖昧化する傾向にあり、このことが新生児医療の倫理を構築していくうえでの支障になる。 (2)日本における新生児科学の提唱者である東京女子医科大学の仁志田博司名誉教授が「周産期」という視点から産科と新生児科の連続性を強調するのに対して、聞き取り調査においては小児科と新生児科の連続性や一体性を重視する考え方が示され、このような新生児医学・医療に対する見解の違いが医療倫理観にどのように反映するのかをさらに調査をする必要がある。 (3)成人患者に対する医療においても、患者の自己決定権やinfomed consentを絶対視することは妥当でなく、ましてや患者本人が意思能力を有しない新生児医療において、親の意思決定を絶対視すべきではない。ただし、新生児医療においていたずらに親を疎外すべきではなく、「家族参加型新生児医療」の具体的なあり方を模索する必要がある。 (4)かつては新生児を救命すれば親から感謝されたが、親の意識も変わり、救命後の子どもの生命の質を問題にするようになっており、こうした状況への生命倫理学的対応が不可欠である。 さらに、医療ネグレクトの背景にある「関係障害」について、特に障害児とその親の関係に着目し、社会福祉的な視点を踏まえつつ文献研究を行った。
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