医事法の本質を「関係性の法」と位置づけたうえで、その体系構築に必要な(1)基本的な法原理、(2)これを適用・運用するための総合的医療システム、を提示することを目標とした。まず、(1)に関しては、(a)親権が「子どもの最善の利益」という客観的利益の実現のための義務的性格を有しているとすれば、子への治療行為の規整原理については、子の利益の処分に関する自由裁量の余地を親権者に残すような同意という主観的な法形式を偏重せず、治療行為の客観的利益傾向としての優越利益性に重点を置いて理論構成すべきである、(b)もともと、親権者が子にとってあくまで「他者」であるにもかかわらず、自己決定原理に反し他者同意という形式で治療行為の優越利益性を担保する「保証人」としての排他的・独占的地位に立つ必然性はなく、医療現場において親権者と共存的な関係で「保証機能」を有するシステムが構想されるべきである、 (c)そもそも、自己決定理論に基づくインフォームド・コンセントに関しても、医の権威への対抗手段として患者自身によるその生命・身体に係る法益処分の自由性への過度の焦点化がなされ、かつこうした法理が親権者の同意にも推及されることに対する歯止めを欠くことが問題であって、人間の関係性が本来有する自律的な調整・構築力を信頼しつつこれを引き出す「関係性のためのインフォームド・コンセント」として再定義されるべきである、などの仮説の検証に取り組んだ。そのうえで、(2)に関しては、特に上記(b)との関連を意識しつつ、親権者との共存的・調和的な環境において子のために最善の利益を代弁・保証しつつ関係調整機能を有する装置として、病院倫理委員会、 医療福祉的・法的ソーシャルワーク、臨床倫理コンサルテーション、子どもの代理人などからなる複合的な医療システムのあり方について検討した。
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