従来、労働者の生産性は主として能力や努力にのみ依存し、その他の要因は企業組織や職業の内部において変わらないとの想定の下、実証分析がなされてきた。しかし、現実には、上司は部下に対して管理・監督、課業の割り振り、教育訓練、非金銭的動機づけ等の機能を果たし、労働者の生産性に影響を及ぼすと考えられる。この点をふまえ、本研究では、中間管理職である店長の能力が管轄する店舗の生産性に及ぼす効果を分析した。その結果は以下の通りである。 (1) 店長は店舗業績に対して大きな効果を持ち、重要である。平均的店長と比べて、「悪い」店長を「良い」店長に交代させると、店舗の利益が約14%向上した。(2) 店長配置の基本パターンは「小規模店舗から大規模店舗へ」で、業績が悪化している店舗には、店舗経験の長い店長が配置されていた。(3) 若い店長や店長昇進前に新車のみならず幅広い経験をした店長の業績が良かった。(4) 店長昇進後の店長のスキルのピークとそれに要する期間を計算したが、店長の学習効果はあまり重要ではなく、店長を教育して生産性をあげるよりも、「良い店長」を正しく選抜することの方がより重要であった。 さらに、個々の営業スタッフの生産性にいかなる影響を与えるかも分析を試みた。その結果、(1) 店舗レベル同様、店長を1標準偏差上の質を有する者に交代すると、営業スタッフの獲得利益は9.3%上昇した。(2) 若い店長は年輩の店長に比べ、より収益性の高い店舗に配属されていた。店舗規模が大きいほど利益率が高く、優秀な店長は大規模店舗に配属され、より多くの部下を管理監督していた。(3) 店長は店舗や営業スタッフの生産性に影響を及ぼしていた。AJ社では店長に対し、部下の獲得利益に依存する業績給が導入されているにもかかわらず、業績の賃金に与える感度は小さく有意ではなかった。
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