平成22年度においては、日本の紙パルプ企業での経営実践プロセスにおける合理性や革新性の追求をめざすやり方と、それらと別に経験的ないし慣行的なやり方を重視していく側面との双方向的な営為の絡み合いを具体的に捉えるために、経営学の分野などからの学理的な考察と、企業現場での実践遂行に関する歴史的な理解をともに深めるべく努めた。 そのうち前者については、平成22年2月末に発表の拙論「経営史研究での次なる視差の強調」『人文社会論叢』社会科学篇、第23号、弘前大学、49-65頁における検討をベースとして、新たに購入した文献や東京での公益財団法人・紙の博物館所蔵資料の渉猟などを通じて次なる論点や論拠などの検討を進めた。また、後者については、本研究の申請時に聞き取り調査などで主たる協力を期待していた紙パルプ業界OBで業界通の人物が平成21年末に急逝されたため、改めて紙の博物館での別の業界関係者からの大企業の事例を中心とする聞き取り調査や、国内で紙パルプ産業集積地のひとつとして知られる四国の愛媛県東部地域などでの中小企業を中心とする実地聞き取り調査に取り組んだ。それらの文献資料の研究や聞き取り調査の結果、経営実践プロセスの有り様について、大企業と中小企業の間に少なからぬ違いが見出せて、それらが今後の研究において重要な論点のひとつとなり得るように思われる。現代の日本における紙パルプ産業での大企業と中小企業の並存も、このような経営実践プロセスの異同が大きく関わっていると考えてよいであろう。
|