本研究は、日本の紙パルプ産業での経営実践プロセスについて、そこでの当事者による合理性や論理性の追求とは別に、経験的な習熟性や慣行性の追求が先ずあって、それら双方の絡み合いの中で新たな経営革新の模索などがあることを経営史の視点から調査研究しようとしたものである。今年度が研究の最終年度であるため、業界関係者OBなどからの聞き取り調査を継続した一方で、実証と理論の統合に向けての理論的フレームワークの精緻化が改めて必要となったため、今年度配分された直接経費の多くを充当して追加的に購入した関連文献などを使い、その精緻化を図った。 その結果、紙パルプ産業のような企業活動での経験性や信頼性が重視される業態では、中小企業だけでなく、大企業でも、企業活動の技術的側面だけでなく、人材の活用などを含む経営的な諸側面でも経験的な習熟性や慣行性が歴史的に重視されており、そこに限界や制約が意識されると、外部の機械メーカーをはじめとする協力企業などとの連携のもとで次なる革新の取り組みがなされ、そうしたやり方の継続的な積み重ねを通じて業界での他社に対する競争力の源泉が求められてきていることを読み取ることができた。ただし、このことは、その一方で他社においても同様な積み重ねでの対応を可能として、機械メーカーなどとの連携がそれほどの系列性や閉鎖性を歴史的にもっていないことから、近年のように経済のグローバル化が進むと、企業間の競争関係が一段と強まって、それが経営業績などの動向を世界的な市場の趨勢次第とさせていく要因ともなってきているが、このような企業活動の歴史的な実態が他業種を含めての企業活動全般の普遍的な理解において重要な論点になるべきと考える。
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