2007(平成19)年の少年法改正によって、重大触法事件に関する児童相談所の家庭裁判所への原則送致が義務化された。これによって児童相談所は、長崎事件、佐世保事件のように、非行事実(罪名)の重大性だけで、重大触法事件を家庭裁判所にいわゆる「丸投げ」し、その結果として児童相談所先議の原則が変容し、児童福祉優先の理念が後退するのではないかと危惧された。 本研究は、それを検証する目的で、改正少年法が施行された2007(平成19)年11月1日から2008(平成20)年10月30日までの1年間に、重大触法事件として警察から児童相談所に送致された59事例のなかで、児童相談所が家庭裁判所に送致した21事例、送致しなかった38事例のうち、承諾の得られた15の児童相談所を訪問し、送致された17事例と送致されなかった10事例について、判断基準、送致根拠、処遇意見等に関してヒアリング調査を行った。 その調査をふまえた分析と考察によれば、改正少年法施行直後の状況下で、児童相談所の一部には混乱と誤解が生まれ、児童相談所先議の原則が変容し、児童福祉優先の理念が後退しつつあるのではないかとの疑念を招く事例も散見されたが、全体的な状況としては、非行事実(罪名)の重大性(形式的な要件)だけでなく、その要保護性の程度(実質的な要件)を調査・判定し、その年齢も考慮したうえで、児童相談所は家庭裁判所送致の原則と例外(非送致)を判断していることが示唆された。 2007(平成19)年の少年法改正後、全国各地の児童相談所に対し、初めてヒアリング調査を行って、重大触法事件に関する原則家庭裁判所送致の実態を具体的に浮き彫りにするとともに、児童相談所先議の原則にもとづく児童福祉優先の理念を再構築するための実践的な提言を行った本研究の意義と重要性はきわめて大きい。
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