研究概要 |
研究課題の中心的な目的である「理想境界における次元解析と力学的構造」への応用を念頭におき、本年度は位相力学系的考察(鎖回帰集合と力学的構造)、微分幾何学的考察(離散群および固有距離空間における漸近的トポロジー)により研究を進めた。 位相的力学系の観点からは、C.Conleyにより導入された誤差付き回帰性をもつ点たちの挙動に着目した研究を進めた。この概念は誤差付きであるにも関わらず、力学系のアトラクターに関する研究において、中心的な役割を果たすとても重要な概念である。横井は、n次元(n-1)局所連結コンパクト距離空間における鎖回帰集合の考察を続けているが、その空間上におけるPughの閉補題についての解説をした。さらに、非自励離散力学系における鎖回帰集合についての研究を進めた。 M.Gromovは、リーマン多様体の基本群の構造解析を目的とした(双曲的)離散群の漸近的不変量の研究を目的として、漸近的次元や漸近的ポロジーの概念を導入した。その当初の目的から対象が一般化、拡大化し、現在では固有距離空間において漸近的トポロジーの研究が集中的に行われている。これらの研究は固有距離空間の良い振る舞いをする適当なコンパクト化の余空間(理想境界とみなすことができる)の次元と密接に関連している。保坂は、ユークリッド平面と同相な固有CAT(0)空間を調べ、その漸近的次元は常に2となり、境界は円周となることを示した。特にここでは,群作用などの条件のない一般のCAT(0)空間で示したことが重要である。またこの応用として、コクセター系から導かれるDavis複体の境界が円周と同相であるならば、その漸近的次元は2であることがわかった。
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