研究概要 |
本研究課題の主目的は,重定・川崎・寺本(1979)によって提出された競争関係にある2種の個体群密度の動態を記述する反応拡散系(2種競争系)に対して,定常解の存在と安定性,および大域的な解構造を調べることである.ここでは,一般的な解を扱うのは非常に困難であるために,生物の住処をある球の内部とし,求める解を球対称解に制限した最も単純な場合について,数値計算や数値的検証法などの数値的な手法と数学的な手法を相互補完的に用いて,拡散係数に関する2種競争系の定常解の大域的な解構造について研究を行っている. 研究対象である2種競争系は個体群密度に依存する非線形な拡散項をもつ反応拡散系である.拡散項から与えられる変数変換を行うと,拡散項は線形になるが,変数変換の影響を受けて,非線形項はより複雑なものになる.このことから,競争系の枠組みの中で一般化された非線形項と線形な拡散項をもつ反応拡散系を考察し,住処の空間次元を実数値パラメータと考え,空間次元と拡散係数に関する球対称定常解の大域的な解構造を調べている. これまでの研究から,線形な拡散項と2次の非線形項をもつ古典的な2種競争系においては,拡散係数を零とした極限系の解構造が,拡散係数に関する大域的な解構造を理解する上で重要な役割をすることが分かっている.このことを考慮して,本年度は一般化された競争系において拡散係数を零とした極限系を主な研究対象とした.比較定理や分岐理論などの数学的な手法を用いて,極限系の球対称定常解の性質を調べることにより,空間次元に関する解構造のパラメータ依存性を得ることができた.この依存性は,与えられた空間次元について,2種競争系の球対称定常解の拡散係数に関する解構造を理解する際に役立つものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である来年度は,数学的な手法による解構造の研究をこれまで通り行いながら,数値計算や数値的検証法などの数値解析的な手法を活用し,時間大域的な解挙動や,球対称性をもたない定常解の性質を重点的に調べたい.
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