研究概要 |
研究計画の最終年度にあたり,切断近似をしないボルツマン方程式に対し現在までに得られた解の存在理論と正則化理論の集大成を目指した.具体的には積分核が本来もつ粒子間、衝突角度変数に関する特異性を除外せずに衝突積分作用素の上からと下からの最良な評価を求め,解の存在空間,一意性の成立条件などの臨界を検討した.すでに10数編の共著論文をもつ海外共同研究者, Chao-Jiang Xu, Tong Yang 教授と,研究協力者,鵜飼正二(東工大名誉)教授を各1週間程,京都大学に招へいし,代表者は,切断近似をしないボルツマン方程式に対して,集中的な討論を行った.代表者は平成24年度の講義休講期間を利用して,香港城市大学,ルーアン大学,(Xu 教授が伴任教授を務める)武漢大学等で各1週間程度の共同研究を行った.上記の衝突積分作用素の評価においては,従来2乗可積分空間を主として用いてきたが,Toscani-Villani,Cannone-Karch 等によるフーリエ像の原点における接触オーダーを尺度とする評価はマクスウェル型と呼ばれる積分核が簡単な場合には極めて有効であり,Tong Yang 教授との共同研究でこの尺度評価を用いた関数間空間で測度を初期値とする空間一様なボルツマン方程式(マクスウェル型)について単独Dirac 以外の初期値では必ず平滑効果がおこることを証明した.マクスウェル型の場合には,衝突積分作用素の平衡解の周りでの線形化作用素が擬微分作用素と特殊関数を用いて計算可能であり,海外共同研究者であるNicolas Lerner 教授、Xu教授,Karel Pravda-Starov 講師との研究により,空間一様な場合を中心に初期値問題の解のGelfand-Shilov型(速度変数の指数オーダー減少とGevrey級解析性)に関する平滑効果を示すことに成功した.
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