研究概要 |
1 d次元格子上の離散型ランダム・シュレーディンガー作用素をアンダーソン・モデルと呼ぶ。このランダム作用素を大きな有限領域に制限し、そのスペクトル(固有値系列)をあるエネルギー値Eを中心としてスケールした上で無限体積極限をとると、スペクトルはポアソン点過程に法則収束することが本研究代表者の1996年の結果(Commun.Math.Phys.Vol.177,709-725)からわかっている。一方、実験との対応を考えると、スペクトル軸に沿った統計操作を行った上で確率1での極限定理が示されることが望ましい。これについて、代表者は固有値が漸近的に一様分布するような操作(unfolding)を定義し、それによって一様化されたスペクトルに対する「漸近的エルゴード性」という概念を定義して、この問題に定式化を与えた。アンダーソン・モデルについては部分的な結果しか得られなかったものの、他の例としてデルタ関数の有限列をポテンシャルとする1次元シュレーディンガー作用素のスペクトルについて漸近的エルゴード性を示すことができた。またこれと同じ手法により、順序統計量の間隔分布に対する確率1での極限定理を証明した。この定理の主張自体は半世紀以上前から知られていたようであるが、その証明は既存の文献の中に見当たらない。 2 J.A.Ramirez,B,Rider,B.Viragはある種のランダム行列の固有値の確率法則と、一様電場とホワイト・ノイズをポテンシャルとするシュレーディンガー作用素の固有値の確率法則の対応について興味深い指摘を行っているが(arXiv:math/0607331)、彼らの研究は代表者が1982年に発表した論文において未解決だった問題と密接に関わっており、同時に彼らの議論にも不十分な点があることがわかった。この部分を解決する課題を次年度以降の研究計画に加えたいと考えている。
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