平成25年度は前年度に引き続きstochastic Airy operator(以下SAOと略す)について研究をおこなった。SAOとは、正の半直線上で定義されたシュレーディンガー型の2階の常微分作用素であって、0字の項(ポテンシャル項)がホワイトノイズと、正の無限大に発散する項からなるものである。SAOはベータアンサンブルと呼ばれるランダム行列モデルからの「連続極限」としてDumitriou-SuttonおよびRamirez-Rider-Viragにより導入されたものであるが、ポテンシャル項にホワイトノイズという超関数が含まれることから、ヒルベルト空間における線形作用素(operator)としての正当な意味づけがなされないままであった。平成24年度に本研究代表者(南就将)はブラウン運動の見本関数(その形式的な微分がホワイトノイズである)から作られるある2次形式から関数解析の一般論を通じて得られる自己共役作用素としてSAOを定義した。平成25年度にはその研究の継続として次の2点を明らかにした: 1 ブラウン運動に代えてより一般的な、いわゆる「分数ブラウン運動」を用い、また線形のポテンシャル項の代わりに任意のベキのオーダーで正の無限大に発散する項を用いても、同様の2次形式が定義され、自己共役作用素が対応する。 2 2次形式を用いて抽象的に作用素を定義する方法の他に、一般化微分作用素としてSAOを定義する方法が考えられるが、この2つが一致することを確認した。 上記の成果をまとめた論文は現在投稿中である。プレプリントは http://arxiv.org/abs/1401.0853 において閲覧可能である。 本研究のその他の活動として、2013年12月5-7日に「ランダム作用素のスペクトルと関連する話題」という研究集会を中村周氏(東京大学)、上木直昌氏(京都大学)と共催した。
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