研究課題/領域番号 |
22540221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 修平 東京大学, 大学院・数理科学研究科, 准教授 (20247208)
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キーワード | Palis予想 / 可観測性 |
研究概要 |
平成23年度の研究目的は、高次元Palis予想の証明を目指して、平成24年度も視野に入れながら研究を促進することであった。一方で、前半の研究により発生した新たな観点による副産物として、数値解析的観点から見て良い周期軌道をC^1摂動によりつくる技術の開発も同時に進めることを計画していた。この研究は「周期軌道の可観測性」という新たな概念を定義するため、数学的に正確であってかつ内容的にも意味のあるような定式化を行う必要があり、すでに提出されている問題を解くこととは別種の困難が存在し、何度か修正をせまられることもあった。その試行錯誤による作業を、平成23年度の後半にいくつかの研究集会での発表を通して行ったため、論文の投稿は平成23年度末までずれこむこととなった。 この研究は、ニュートン法などの力学系的手法を用いた数値実験において観測される事実と力学系理論として可観測であるとしている対象との間のギャップを埋めようと試みるものである。数値実験的観点を含む数学的概念を提起するため応用力学系理論の数学的基礎付けに関わる内容であり、もしこの概念が有用であれば、これまでの数学的理論もこの観点から再チェックすることも必要になる。具体的には、robust transitivityを持つ力学系はコンピュータによりチェック可能とされてきたが、その力学系の満たす性質を証明するための常套手段は背理法により吸引的周期点の存在を示すことから矛盾を導くというものであった。ところが本研究は、吸引的周期点は必ずしも可観測でないということが出発点となっているため、吸引的周期点の理論的存在証明が数値的存在証明にならない以上、robust transitivityを持つ力学系の性質はコンピュータでチェック可能とは必ずしも言えない。そのため、単なる吸引的周期点の存在ではなく、可観測吸引的周期点の存在まで示すことが要求されてくる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究途上で「周期軌道の可観測性」という概念に遭遇し、その部分を論文にまとめることに時間を費やし、それが予想以上の時間を要したため、中心課題である高次元Palis予想の研究の方まで時間がまわらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は前半の研究から後半の研究への橋渡し期間として、もし前半の研究が順調に進んでいればSmale予想の考察を予定していた。しかしながら約1年の遅れを考慮し、平成24年度の基本目標を高次元Palis予想の証明に設定し、Smale予想の考察は別の機会にまわす方策をとる。これは、当初の研究計画作成時から想定していた事態であり、平成23年度の研究内容は予想外のものであったものの、根本的な計画の変更というものではないので、引き続きこれまでの研究計画に沿った研究を行う。
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