研究概要 |
本研究の目的は,コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)を中心とした非線型レーザー分光法によって,超流動液体ヘリウム中の素励起を生成・観測する手法を確立することにある。本年度は,前年度に本研究の目的のために最適化して設計・製作したガラス製クライオスタット周りの真空配管系,および液体ヘリウム温度測定系の整備,並びに,CARSに用いるYAGレーザーの2倍高調波を3本のビームに分けて立体的なFolded Boxcar型に配置するための光学系の整備を行った。加えて,それら3本のレーザービームを用いて,CARSのための予備的実験といえるレイリー散乱(非共鳴縮退四光波混合)の観測を試みた。3本のレーザービームを同一のレンズによって集光し,レンズの焦点の位置でそれら3本のレーザービームを一致させるための調節は,焦点の位置に薄い色ガラス板を置き,前年度に購入したCCDカメラ付きマイクロスコープを用いて色ガラス板からの散乱光を直接に観察することによって行った。液体ヘリウムは高価であるため,まず手始めにクライオスタットに1気圧程度の気体ヘリウムガスを詰めて,気体ヘリウムによる3ビームのレイリー散乱を観測する予定であったが,クライオスタットの窓板の質が悪いために窓板による散乱光が多く,それは本年度は断念した。その代わりに,クライオスタットの外の大気中でのレイリー散乱の観測,つまり主として窒素分子および酸素分子によるレイリー散乱の観測を試みた。その結果,直接目で見える程度のレイリー散乱光を観測できた。このことから,ヘリウム原子の電子励起状態は窒素分子や酸素分子よりも遙かに高いが,液体ヘリウム中のヘリウム原子密度は1気圧の気体よりも3桁程度大きいことを考慮すると,液体ヘリウムによるレオリー散乱光,さらには素励起によるCARS光が観測できる可能性は高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,研究計画では液体ヘリウムによるCARS光の観測までを行う予定であったが,「研究実績の概要」に述べたとおり,前年度に設計・製作したクライオスタットの窓板の質が悪かったために窓板からの散乱光が多く,クライオスタットを用いた液体ヘリウムの実験にまで至らなかった。ただし,その代わりに,本年度は,「研究実績の概要」に述べたとおり,同じ実験配置を用いた大気中でのレイリー散乱の観測を行い,液体ヘリウムによるCARS光の観測可能性の高さを確認した。来年度は,良質の窓板を購入して上記の問題点を改善し,再度挑戦する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,「現在までの達成度」に述べたとおり,前年度に設計・製作したクライオスタットの窓板の質が悪かったため窓板からの散乱光が多く,クライオスタットを用いた液体ヘリウムの実験にまで至らなかった。来年度は,この問題点を改善するため,良質の窓板を購入して前の窓板と交換し,液体ヘリウムによるレイリー散乱光,さらには素励起によるCARS光の観測を行う予定である。
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