生体現象の研究では、機能発現過程の構造を分子レベルの空間分解能で直接観察して調べることが重要である。しかしながら、このような性能を有する分析手法は存在しない。透過電子顕微鏡法は、ナノスケールの空間分解能での構造を実時間観察することが可能な装置であるが、その嫌気性、嫌液性のため、通常の使用法では生物試料を生きたまま直接観察することはできない。そこで、この分野の研究の飛躍的に発展させるために、液体中での生体高分子の構造を無染色で直接高分解能観察可能な透過電子顕微鏡法を開発することを目的として研究を進めている。今年度得られた成果を以下に記す。交付決定通知を受けてから、すぐに、位相差顕微鏡法を実現すべく準備を開始し、従来型の位相板である炭素膜の薄膜位相板の使用が可能な位相板ホルダーを準備し、環境制御塾の透過電子顕微鏡に取り付けた。さらに、環境制御型透過電子顕微鏡法と位相差電子顕微鏡法を組み合わせ、液中試料の位相差法観察を試みた。その結果、太さ10nm程度のミオシンフィラメントの可視化に成功した。従来法では殆どコントラストが得られず、その存在を認識することの出来ない生体高分子で構成されたフィラメントが、位相差法で結像すると、明瞭に観察できた。液中にある生物試料の位相差法での可視化は世界で初めて初めてである。得られた像は、非弾性散乱の効果により、真空中にある試料からのコントラストに比べると劣るものであるが、試料周りの水の膜の厚さが100nm程度であれば、十分に直接観察が可能であることが示された。
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