研究概要 |
上高地大正池西での学術掘削(300m深)の結果、岐阜県側に流下していた古梓川を埋積した未固結の堰き止め堆積物からなることが判明した.堆積物の下部は175mの厚さの湖成層からなる。3000m級の山岳に接する山間盆地にこのような厚い未固結堆積物が保存され、しかも成層したシルト・粘土など細粒の湖成堆積物が主体を占める例は我が国では初めての報告である。山岳地帯の谷底としては極めて平坦な上高地の地形発達史を明らかにできるとともに,湖成堆積物は最終氷期以降に激した上下変動した森林限界など山岳環境の変動を長期間にわたり記録していると期待できる。平成22年度は以下の(1)(2)の研究課題の達成を目指した. (1)上高地での学術ボーリングコア中の材・植物片の年代測定(^<14>C)により、水系変換と堰止め湖の形成から消滅までの時代を決定し、上高地の成立過程(地形発達史)を明らかにする。 (2)微動アレー探査による古梓川の縦断面解析 (3)コア中の花粉・珪藻化石を解析し、最終氷期以降の山岳環境の変遷を明らかにする。 その結果,古梓川の堰き止めは12000年前に生じ,堰止め湖は5000年間にわたって継続したことが判明した.堰止めには,焼岳火山群のアカンダナ山火山(約10000年前)の噴火が関与していると推定される. 微動アレー探査は,明神周辺→小梨平→大正池→安房峠東細池と古梓川の埋積谷深度が130mから485mへと下流(岐阜県側)に向かって低下していることを明らかにした. また花粉分析の結果,堰き止め直後の12000年前は山岳氷河が残存しており,寒冷で乾燥した気候を示すシダや草本類主体の花粉構成が得られた.その後徐々に温暖化が進み,7000年前頃には現在よりもやや暖かい気候を示すブナやコナラ属など落葉広葉樹林帯に変遷していたことが判明した.その後湖の消滅により記録が途絶えるが,4000年前頃は引き続き温暖な気候が支配的であった.花粉分析結果は後氷期の温暖化のプロセスが堆積物に記録されていたことを示す
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