研究課題/領域番号 |
22540468
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
原山 智 信州大学, 理学部, 教授 (60293536)
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研究分担者 |
河合 小百合 信州大学, 山岳科学総合研究所, 研究員 (30510010)
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キーワード | 堰止め湖 / 湖成堆積物 / 花粉分析 / 温暖化 / 14C年代 |
研究概要 |
2008-2009年にかけて掘削した上高地での300mボーリングの結果,12000y.BPに岐阜県側に流下していた古梓川を焼岳火山群白谷山火山の火砕流および山体崩壊堆積物がせき止め,現在の中ノ湯付近から徳沢にいたる巨大な堰止め湖-古上高地湖を生成したことが判明した. 本研究ではせき止め堆積物中の炭質物の14C年代や火山灰同定を組み合わせて,堰止め湖が12000y.BPから7000y.BP.の間存続していたことを明らかにした.せき止め堆積物(深度290m~115m)の約30%が年縞の発達したシルト/粘土層から成り,残りは焼岳起源の火山性堆積物と河川成の砂礫層から構成される.シルト/粘土層からは花粉化石が多数含まれ,最終氷期終了直後の寒冷な花粉構成から7000y.BP.の落葉広葉樹花粉まで山岳環境が急速に温暖化していったことを示している.7000y.BP以降の湖成層は浸食により失われ,不整合関係で4000y.BP.前後の火山性もしくは河川成の砂礫層(深度115mから55m)により被われている.花粉分析は,この時代の堆積物も落葉広葉樹林帯が周辺にひろがっていたことを示しており,現在よりもやや温暖な環境を示していることが明らかとなった. 深度55m以浅の堆積物は火山性もしくは河川成の砂礫が主体をなし,含まれる木片の14C年代は150y.BP.以降を示した.最上部の地層は明治から大正にかけて噴火活動を続けた焼岳によるせき止め堆積物であることを示し,その一部は現在の大正池の堆積物であると判断される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2008年度に掘削した上高地300mボーリングコア試料を対象として,堰止め湖堆積物の堆積年代,花粉分析による山岳古環境の変遷を詳しく解析した.この結果,かつて岐阜県高原川水系に流下していた古梓川は12000y.BP.に焼岳火山群白谷山火山の噴火・山体崩壊によりせき止められ,現在の中ノ湯から徳沢にいたる大規模な堰止め湖(古上高地湖)を形成したことが判明した. 本研究では堰止め湖堆積物中の20試料以上の14C加速器年代を測定し,あわせて広域火山灰鬼界アカホヤを同定することで,堰止め湖堆積物の堆積期間を12000-7300y,BP.と決定した.せき止め堆積物は不整合関係で上位の堆積物に被われるので,湖の存続期間は5000年間もしくはそれ以上と推定できる.堰き止め時期の焼岳火山活動を検討した結果,白谷山火山の末期活動が時代的に符合しており,火砕流噴出か山体崩壊堆積物がかつて岐阜県側に流下していた古梓川を現中ノ湯付近でせき止めたものと判断した.上高地ボーリングでは深度290まで埋積堆積物が確認でき、300m深までの10mが古梓川の河床堆積物であった.このことは古梓川が山岳地に一般的な急峻なV字谷であったことを示している. 花粉分析もコア試料中から多数産出し,12000y.BP.から7300y.BPまで後氷期からの急激な温暖化が生じたことを示している. 以上のことから当初の研究目的であった,上高地地域の山岳環境の変遷と地形発達史の解析はほぼ満足のいくレベルまで研究が到達したと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
地形発達史の点では,ボーリング地点が1地点に限定されているために,古梓川流路の推定が困難がある.これを克服するために,最近注目の地下探査技術である微動アレー探査を採用して、古梓川の流路を確認することが望まれる.予察的な5地点での探査結果は,岐阜県平湯から白谷方向に向かって河床基盤が低下することを示しており,かつての古梓川が高原川水系に属していたことを示した. ただし微動アレー探査の結果は上高地河童橋~小梨平間で水平距離200m間で基盤岩深度が上流側で100m浅くなっていることを示しており,より詳細な横断型探査(チェインアレー探査)の必要があると判断される.この一帯には東西系の断層が走ると推定され,上記100mの落差は活断層による変位を示している可能性がある. 本来の目的は埋積谷の流路確認であるが,この研究過程で浮上してきた活断層の可能性も最終年度の研究目的に加える予定である.
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