飛騨山脈上高地で掘削した300mボーリングにより明らかとなった埋積谷(古梓川)の流路を確認するため,地下探査の最新技術である微動アレー探査法を用いて上高地徳沢および小梨平付近の梓川河床で埋積谷の岩盤深度と埋積堆積物のS波速度構造の解析を行った.この探査の結果,上高地明神から安房峠細池にかけて岐阜県高山市平湯方向に向かう古梓川の埋積谷が確認できた.ボーリングコア中の堰止め湖堆積物基底部の14C年代は12000y.BPであり,焼岳火山群の白谷山火山の噴火および山体崩壊により古梓川のせき止めが生じ,上流側に5000年以上にわたって堰止め湖(古上高地湖)が存続したことが明らかとなった. いっぽう小梨平および徳沢-明神間には埋積谷の岩盤深度が急変する箇所が確認された.周辺の基盤岩の踏査結果と合わせると,小梨平と明神を結ぶ東西系の現梓川流路に沿ってのびる複数の右横ずれ断層が推定される.垂直変位は北側上昇を示す断層が多いものの,北側進化を示す断層も確認された. 小梨平での埋積谷横断ライン調査(チェインアレー探査)により,埋積堆積物中にも断層による変位が確認されたので,これらの断層は活断層であると判断できる.1998年には小梨平と明神間で群発地震の震源が集中しており,これら群発地震を引き起こした地震断層を捕捉した可能性が高い. 古梓川の埋積谷は南→北もしくは北東→南西に流下している部分が卓越するので,小梨平-明神間の東西流路は古梓川の時代(12000y.BP以前)から断層の変位により谷地形が支配されていたと推定され,上高地の地形発達史上,これら活断層は重要な役割をになってきたといえる.
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