研究概要 |
生体高分子の水和は,それらの構造安定性や機能に重要な役割を担っている。例えば,タンパク質の溶媒和は,折畳みなどのタンパク質の等温平衡状態や濃度依存的な効果の決定因子である。また,細胞内は様々な高分子により極めて混雑した環境にあり,タンパク質は共存分子混雑環境で機能する様に設計されている筈である。混雑環境はタンパク質の平衡状態を変化させることに疑いはないが,タンパク質の折り畳みに関する研究の大半が希薄溶液中で行われてきたために,混雑環境効果に関しては議論が錯綜している。本研究は,高分子量共存分子(ポリビニルピロリドン:PVP)存在下でのタンパク質の折畳み機構や生体膜の安定性を明らかにする目的で実施した。 研究期間内に,高濃度共存溶質分子溶液中のタンパク質の平衡構造,フォールディング・アンフォールディング,アミロイド構造転移の研究,高濃度存溶質分子存在下における脂質リポソームの構造転移の研究,タンパク質封じ込め脂質リポソームの作製法の確立とその構造特性に関する研究を実施し,下記の成果を報告した。 ●非荷電性共存溶質高分子が存在する浸透圧下におけるタンパク質の熱構造転移のアンフォールディング・リフォールディング過程に関して,階層構造依存性を検討し,タンパク質の水和状態の変化,変性の中間状態の安定化を見出した(Thermochimica Acta, 532, 15(2012))。 ●脂質ラフト成分を含有したモデル生体膜において,非荷電性共存溶質高分子の添加に伴う浸透圧の変化によって,可逆的なエンド/エキソサイトーシスと類似の構造転移が起きることを見出した(J. Phys., 83, 012003 (2010))。 また,高濃度共存溶質分子存在下では,タンパク質のアミロイド構造転移が促進されること,タンパク質封じ込め脂質リポソームでは,構造転移温度が上昇することなどを見出した(投稿中)。
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