葉緑体NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ複合体(NDH)とは、葉緑体チラコイド膜上の、光合成に不可欠な循環的電子伝達 経路を構成する複合体であり、最近その分子的な実体や機能が明らかになりつつある。しかし、その複雑なサブユニット構成や 電子伝達活性そのものについて未だ不明の点が多い。分子的実像がいまだ明らかでないため、なぜこのような 巨大複合体を葉緑体が保持しているのかという根源的な謎の解決に踏み込めないのが現状である。本研究では、 分子実体の解明に焦点を絞り、最近可能となった公開データベースを利用したバイオインフォマティクスを駆使して、未知サブユニットの同定を基盤とした構造解明を目指してきた。 1) バイオインフォマティクスを利用した未知サブユニットの同定: インシリコ・スクリーニングの結果、現在までに9個の新規サブユニットを解析し報告することに成功した。また、研究競合者らと連絡して混乱したサブユニット名を統一し、複合体全体の構造がほぼ明らかになった。 (2) 電子受容体結合サブユニットの同定: 申請者らが同定した新規サブユニットのうちNDF4は、2S-2Feクラスターをもち、電子受容サブユニットの可能性が高いと推定される。このサブユニットの電子伝達活性の有無を明らかにすべく、サイトディレクテドミュータジェネシスにより、サブユニットとしての構造を保持しながら電子伝達活性のみを欠損 させた変異タンパク質をNDF4欠損株で発現させた。その結果、NDH複合体の構造を安定に保持したまま、当該S-Feクラスターを欠損した株をえることができた。これらの株では、NDH指標のひとつである光照射後のプラストキノンの一過的還元がみられたことからこの活性に当該S-Feクラスターは不要であるという結論を得た。
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