研究概要 |
前年度、H-Tyr-D-Trp-NH-1-または2-AdaのTyr残基をPhe,1-Nal,2-Nalに置換することによりはYO-14,13より疎水性の高い化合物が得られた.本年度は,得られた化合物の生物学的活性~ソマトスタチン(SS-14)受容体(SSTR1-5)との結合性,抗腫瘍活性,DNA polymerase活性阻害活性~を検討し,さらに疎水性に加えて水素結合できる官能基の導入を試みた.水素結合できる官能基の導入については現在も検討を続けている. 1)生物学的活性の検討:これら化合物のSSTR1-5に対する結合能は、SS-14の1,000分の1程度と低かったが、Phe,Dmtの置換体は比較的強く結合した,すべての化合物はYO-14,13と同等以上のDNA polymerase阻害活性を示した。なかでも1-Nal,2-Nalの置換体は10μMおよび100μMでYO-14,13より強力な阻害活性を示した。ヒト腫瘍細胞(HCT116 cells)において,すべての化合物は100μMでYO-14,13より強力な抑制効果を示した。すなわち、疎水性とDNA polymerase阻害活性の間には良い相関が見られ,さらにある程度の疎水性を示す化合物はヒト腫瘍細胞(HCT116 cells)の増殖活性を抑制した.疎水性は化合物探索の1つの指標となることが示された. 2)Tyr,D-Trp残基の置換:Tyr,D-Trp残基の重要性を検討するために,Tyr残基をAla,D-Trp残基をD-Alaに置換した,すなわちX-Ala-D-Trp-Y,X-Tyr-D-Ala-Y,X-Ala-D-Ala-X,X-Ala-Ala-Y(X=H, Y=1-adamantyl-amide or 2-adamantylamide)を合成した.すべての化合物はYO-14,13と比べると弱いDNA polymerase阻害活性しか示さなかった.ところがX-Ala-D-Trp-Y(X=H, Y=1-adamantylamide or 2-adamantylamide)はヒト腫瘍細胞(HCT116 cells)の増殖をYO-14,13より強く抑制し,さらにマウスマクロファージの増殖を抑制するという興味ある知見を得た.これはTyr残基,D-Trp残基ともにDNA polymerase阻害活性発現のためには必須であることを示唆するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疎水性を指標に抗腫瘍活性を有する化合物の探索を行う手法自体は概ね順調に進行している。しかし,抗腫瘍活性やDNA polymerase阻害活性を高めるためには,相互作用できる官能基をさらに付与する必要がある。現有の化合物について、生物学的検討(DNA polymeraseが関与しているのか,しているとすればどのように作用しているのか,等々)や構造学的検討(どのような部位で相互作用しているのか,等々)が遅れているため,適切な官能基の導入が難しくという問題点もある。
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今後の研究の推進方策 |
1)疎水性を高める:脂肪酸を導入し疎水性をさらに高め,そのことにより生じる溶解性の問題を,ミセルを形成させることにより改善する分子設計を行う.前述した目的を達成するために以下のような研究を実施する. a)脂肪酸を有するSS-14誘導体の合成:X-Tyr-D-Trp-YのX部分に脂肪酸(C18)を結合する.脂肪酸とTyrの間にはリンカーとして8-amino-3,6-dioxaoctanoic acid(AdOO-OH)とGlyを挿入する.合成はFmoc-法に基づく固相法で行う.目的物はHPLCで精製し,分析HPLCおよびMSで確認する. b)自己集合体の調整:a)で得られたSS-14誘導体を少量のMeOH/CHCl_3(50/50)に溶解し,窒素気流下,溶媒を留去し,両親媒性フィルムを得る.これにリン酸緩衝液(0.1M,pH7.4,0.9%NaCl)を加えて超音波処理する. c)自己集合体が形成されているか否かの評価を行う:表面張力の測定、蛍光測定等. 2)構造上の情報を得るために計算化学を導入する.
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