24年度の研究計画では、黄色ブドウ球菌から得られた欠失変異株シリーズを、野生株と対比させてヒト細胞に作用させて細胞致死性などを評価し、ある症状をもたらす病原性遺伝子の組み合わせを考察する一方、黄色ブドウ球菌がなぜ3割の健常人に常在するのかを明らかにすることを目的にした。その過程で、従来の認識を覆す発見をすることができた。その概要を以下に記す。 強毒型黄色ブドウ球菌MW2株は容易にマウスへの皮膚定着を起こさないが、低頻度で定着した黄色ブドウ球菌は、β-ヘモリジン遺伝子を保持していることを見いだした。MW2はβ-ヘモリジン遺伝子にファージが挿入されているため同遺伝子を発現しないが、ファージ欠失により発現するように変化したのである。そこで、β-ヘモリジン遺伝子保持株と欠失株を作製してマウス皮膚定着実験を試みたところ、前者のみが効率的に定着することが示された。さらにマウスだけでなく、β-ヘモリジン産生株はヒト皮膚角化細胞(ケラチノサイト)を特異的に傷害すること、さらに精製したβ-ヘモリジンはケラチノサイトを傷害するが、白血球溶解毒素ではそれが起きないことを証明した。この結果は、黄色ブドウ球菌がヒト皮膚に定着してアトピー性皮膚炎などを起こすメカニズムを説明すると共に、健常人に定着したり、或いは感染症を発症する場合には、ファージの脱着によってβ-ヘモリジン遺伝子のON/OFFをしていることを示唆している。β-ヘモリジンは臨床分離黄色ブドウ球菌の一部にしか見いだされない事実も、上述の考察と合致する。なお、マウス皮膚定着実験は成果・論文欄の筆頭著者片山が、ヒトケラチノサイトを用いた研究および論文corresponding authorは本申請者が担当した。 今後は、黄色ブドウ球菌特異的遺伝子がどのように働いて種々の病態を引き起こすのかについての研究をさらに進めたい。
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