研究課題/領域番号 |
22590936
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大八木 保政 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30301336)
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研究分担者 |
本村 今日子 九州大学, 医学研究院, 技術職員 (20380644)
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キーワード | アルツハイマー病 / モデルマウス / アポモルフィン / アミロイドβ / リン酸化タウ蛋白 / 酸化ストレス / モリス水迷路 / p53 |
研究概要 |
【3xTg-ADマウスの神経細胞内Aβオリゴマー蓄積に対するアポモルフィン(APO)治療効果の解析】 アルツハイマー病(AD)モデルマウスの3xTg-ADマウスでは4ヶ月齢より記憶障害を呈するが、2ヶ月齢で既に神経細胞内に毒性ターン構造Aβオリゴマーが蓄積している。2ヶ月齢より週1回APOを皮下注射したところ、6ヶ月齢で非治療マウスと比べて良好な記憶機能が保持されていた。現在、病理学的にAPO治療による毒性ターン構造Aβオリゴマーの蓄積抑制を検討中である。 【APOのAD治療効果に関する特異的経路の解析】 培養SH-SY5Y細胞において、APO処理の有無により発現レベルが変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイにより解析した。その結果、APO処理で発現増加する遺伝子群にインスリンシグナリング関連分子や抗酸化ストレス分子が、APO処理で発現低下する遺伝子群に細胞周期促進蛋白や蛋白リン酸化酵素が認められた。従って、APOの抗AD作用にインスリンシグナリングがかかわっている可能性が示唆された。 【リチウムとAPOの併用治療の検討】 リン酸化タウ蛋白(p-tau)の蓄積を抑制するとされるリチウムとAPOの効果比較および併用治療を検討した。12ヶ月齢の3xTg-ADマウス各n=8において、非治療、APO単独、リチウム単独、APO+リチウムの4群で週1回1ヶ月間の治療を行った。APO単独およびAPO+リチウムでは記憶力改善が見られ、APOの抗AD効果はリチウムよりも明確であった。 【変異PS1細胞におけるAPO治療の効果】 家族性AD変異PS1を導入したSH-SY5Y細胞では細胞内Aβ分解酵素のプロテアソームおよびIDEの活性低下が認められた。APO処理によりそれらの活性が上昇し、APOの抗AD作用機序の一つと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
APOのアルツハイマー病(AD)治療効果の機序に関して、DNAマイクロアレイ解析で神経細胞内インスリンシグナリング経路が重要であることを見出した。高齢の3xTg-ADマウスにおいて、APO治療はリチウム治療に比べて、明確に記憶力を改善することを見出した。APOが変異PS1細胞で低下しているプロテアソームおよびインスリン分解酵素(IDE)の活性を高めることでAβ分解を促進することを見出した。その結果、孤発性・家族性アルツハイマー病の画期的治療戦略として、神経細胞内のインスリンシグナリングによるIDE活性上昇や蛋白リン酸化抑制が重要である可能性を突き止めた。一方、酸化ストレス亢進マウスと3xTg-ADキメラマウスの作成や毒性ターン構造Aβ蓄積に対するAPOの治療効果の検証は現在進行中であり、24年度も研究・開発を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
我が国でも、APOは平成24年4月に製造承認され、まもなくパーキンソン病患者では診療に使用できるようになる。24年度は、特にAPOの抗AD作用の分子機構、特に神経細胞のインスリンシグナリング機構におけるAPOの作用機序の解明を目指す。さらに、神経細胞のインスリン抵抗性が推察される糖尿病モデルマウスと3xTg-ADマウスのキメラマウスではAD病理の促進とAPO治療効果の増強が予想される。このようなAPOの抗AD効果機序の解明を進めて、APO注射薬によるAD患者の臨床治験につなげていく。
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