研究課題
手話の記述について、今年度もバレリー・サットンが提案する手話文字体系(SignWriting)の批判的研究を継続した。日本手話単語のSignWriting(以下SW)表記を継続したところ、これまでの結果も踏まえ、ほぼ十分に日本手話を表記できることがわかった。しかし、手の形や動きに対する書き手の認識の違いによって表記のゆれが生じ、この「ゆれ」を吸収するために単語間の類似度を提案する必要が生じた。そこで、SWによる手話文書エディタ「JSPad」の開発を担当している、研究分担者の松本忠博(岐阜大学工学部准教授)が中心となり、SWによる表記実験をおこなって、書き手による表記ゆれを吸収した類似度検索の可能性を示した。次に、SW学習用のテキスト開発に向けて、まずはSWがろう児のリテラシー教育にどのように役立つかを社会言語学的観点から考察し、近隣のろう学校校長らと面談して意見交換をおこなった。その結果、ろう児にとって学習が容易ではない「やりもらい」や「受け身」などの学習にはSWが効果的に作用することがわかった。手話文字の指導は、まず動きをともなわない片手手話(「男」や「お金」など)の表記の学習から始め、次に両手手話で動きのないもの(「家」や「事」など)、片手手話で動きのあるもの(「姉」や「(値段が)高い」など)、両手手話で動きのあるもの(「経済」や「家族」など)という順とするのがよい。ちょうど漢字の学習のように、画数の少ないもの(手話では、手の形がシンプルで動きの少ないもの)から順に指導することが効果的である。これらの事実から、SWは漢字の体系に類似したシステムを有することがわかる。過去に実施したアンケート調査でも、ろう者のSWへの関心はかなり高い。今後はSWの存在意義を広くろう教育関係者に知ってもらい、議論を重ねながら実践的研究を継続し、より効果的な教材の開発をめざしたい。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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The Ninth Symposium for Japanese Language Education and Japanese Studies Manuscripts
巻: 2012Manuscripts ページ: 841-847