研究課題
本研究は、生命維持に必須の微量元素である亜鉛(Zn^<2+>)に着目し、新規開発中の生体内易代謝性の選択的低分子Zn^<2+>キレーターを武器に、様々な病態に重要な役割を担う肥満細胞の脱顆粒や分泌抑制による、家畜やヒトのアレルギーや炎症性疾患の新たな治療戦略の基盤を構築することを目指すことにある。本研究では、実際のアレルギー疾患モデルを使わずに、きわめて短時間にしかも再現性良く病態モデルとして作製可能な肥満細胞が関与する術後腸麻痺モデルを利用し、新たに開発された低分子Zn^<2+>キレーターIPZ-010のin vivoでの有用性を明らかにする。最終年度の2年目は、IPZ-010の術後腸麻痺抑制作用をさらに詳細に解析するとともにその抑制作用機序についての解析を進めた。IPZ-010投与により、術後腸麻痺によるIL-1βやIL-6などのサイトカインmRNA発現は有意に抑制された。また、他のZn^<2+>キレーターであるTPENや肥満細胞安定化剤であるケトチフェンによっても術後腸麻痺が緩和されることを見いだした。これらの成績からZn^<2+>シグナルの抑制の標的細胞が肥満細胞である可能性が高いことが示唆された。そこで、IPZ-010投与による術後腸麻痺改善作用機序について検討したところ、IPZ-010処置群においては炎症部位でのSTAT3のリン酸化が有意に亢進している成績を得た。すなわち、Zn^<2+>を遮断することにより何らかの細胞内情報伝達系を介してSTAT3がリン酸化され、これによって炎症に深く関与するNF-κBの転写活性を抑制する可能性が考えられた。以上の成績から、術後腸麻痺モデルを用いてアレルギー応答に重要な肥満細胞に作用する薬物をアッセイすることが可能であること、Zn^<2+>キレーターが皮下投与でも経口投与でもほぼ同等の作用し、新規の抗アレルギー剤として有用であることが示唆された。
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