Srcは最初に同定されたがん遺伝子およびチロシンキナーゼであり、細胞の分化・増殖・がん化などを司るシグナル伝達において必須の存在である。これまでの研究で、c-Srcの活性を負に制御するCskを欠損したマウス線維芽細胞が、正常細胞型Srcによってがん化することを明らかにし、この系を活用してSrcによるがん化の詳細な分子メカニズムを再考してきた。本研究では、この代表的ながん原遺伝子産物であるc-Srcについて、がんにおけるその制御破綻・がん形質発現シグナルの伝達機構を、細胞膜ミクロドメイン「ラフト」及びマイクロRNAという新たな観点から解析し、その詳細を解明することを目的としている。まず、がん形質に伴ったラフトの量的・質的変化を調べたところ、ラフトの主成分であるコレステロールやスフィンゴ脂質の組成の変化とそれらの合成や代謝に関わる遺伝子の発現が変動していることを見出した。また一方で、トランスフォーメーション形質と発現の減少が相関するいくつかのマイクロRNAを同定した。中でも、ヒトの様々な癌腫で発現減少の見られるmiR-99aがSrcによるがん化やヌードマウスにおける腫瘍形成を顕著に抑制することを見出した。miR-99aの作用メカニズムを解析した結果、miR-99aはmTORやFGFR3を標的遺伝子としその発現を抑制することで下流のがん化シグナルを遮断し、がん形質を抑制することを明らかにした。またSrcの活性が高いヒト肺癌細胞においてmiR-99aの発現が低下しており、ヒト肺癌由来上皮細胞株にmiR-99aを導入すると腫瘍形成が抑制されることを見出した。
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