今年度は近世紀州画壇における画家のうち、大和絵系に属する画家の作品調査および資料の収集と分析を重点的に行った。この系統に属する代表的な画家としては、冷泉為恭と交流を持った大和絵師・岩瀬広隆と山沢與平があげられる。広隆の作品については、相当数調査を終えているが、今年度は個人所蔵の作品および版本挿絵を中心に調査を行った。また住吉派の大和絵の名手として当時よく知られた山沢與平については、現存作品は非常に少ないため、作品調査とあわせて、文献史料の調査と分析を行った。また、今年度は紀州藩お抱絵師の笹川家の作品および史料についても重点的に調査を行った。その成果の一部は学術論文「紀州藩御絵師 笹川家三代の画蹟」(「和歌山市立博物館研究紀要」27号・2013年)として発表した。 また昨年に引き続き、紀州画壇における画家の伝記資料調査も継続して行った。今年度は、大正時代に編纂された、貴志康親編『紀州藝術家小伝』(1929年)に掲載されている画家に関する伝記資料のデータ化とともに、未紹介の日記、書簡類等の諸史料の翻刻作業を行った。作品および文献、日記、書簡類等の具体的な調査先は、和歌山市立博物館、和歌山県立博物館、和歌山県立図書館、和歌山県立文書館、東京国立博物館、東京文化財研究所、東京大学総合図書館、国立国会図書館、神宮文庫、和歌山県内および大阪府・兵庫県・京都市・東京都内の個人所蔵者である。 また、今年度は、データベースアプリケーションソフトによる画像データベースの構築を行い、近世紀州画壇全体を把握するための基礎資料の作成に着手した。
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