本研究では、まず、日本企業のペイアウト政策(配当と自社株買い)が、どのような特徴を有しているのかを明らかにする。そして、配当や自社株買いを行う企業とその株主との間における富の移転(wealth transfer)問題についての可能性の考察を行う。主要な実証結果によれば、 (1)企業は、自社株買いを配当の補完的なペイアウトとして利用していること、 (2)企業が、自社株買いを実施する前に、利益マネジメントを行っており、しかも、収益指標(ROA)の変化を見る限り、自社株買いが、将来収益の楽観性を表わすシグナルというよりもむしろ、その企業におけるリスクのシグナルとなっていること、 (3)近年(2003年度-2010年度の期間)において、配当の硬直性は観察されず、むしろ、企業が収益に対して柔軟な配当政策を実施していること、が挙げられる。 これらの結果をまとめると、日本において自社株買いによるペイアウトには、富の移転問題が存在している可能性がある。
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