平成22年度においては、調査協力に同意したインタビュイー16名に対して、述べ32回のインタビューを実施することができた。インタビューの目的は就職のきっかけ、これまでの仕事経験、職場における研修等のあり方、仕事の中での転機とその主観的意味づけ、将来への展望などについての若年層ホワイトカラーの語りを収集することにあった。また、本研究はこれまでの離職研究とは異なり、継続的パネル調査を特徴としている。これは離職の意図がどのように形成されるのか、をリアルタイムでデータを収集するためである。 社会心理学の分野におけるナラティヴ研究においては、個人の経験についての語りは、語りの機会ごとに幾度も意味形成が繰り返され、そのたびに自己が改めて形成されるという視点が重視されてきた。しかしながら、このような視点を経営学のキャリア研究に応用する試みはほとんどなされていない。それは膨大な時間と労力がかかるためであるが、その反面、そこで収集されるデータの価値はきわめて貴重である。 本研究は平成22年度において、若年層ホワイトカラー、とりわけ女性のそれについてキャリア初期の意味形成の変遷をとらえることに成功し始めている。調査期間中に離職の意図を形成しているもの、あるいは実際に離職した調査協力者も現れ、その意味形成の変遷は大変興味深い。また、本研究は首都圏と地方都市との間における初期キャリアのあり方にも注目している。ここでも個人を取り巻く人間関係の違いがキャリア感の相違につながっており、興味深い。 本研究は継続調査の結果から、時間を通してどのような意味形成の変化がみられるのかを明らかにする研究であるため、単年度での論文執筆あるいは学会発表は不可能である。今年度(平成23年度)後半あるいは来年度にかけて分析結果を発表していく予定である。
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