研究概要 |
本研究では,漢方薬「六君子湯」の短期投与が血中のグレリン濃度を上昇させ,視床下部NPYの発現を介して摂食を亢進するメカニズムが,カロリー制限(CR)で見られる現象と類似している点に着目し,六君子湯(RKT)のカロリー制限模倣薬としての可能性を検証した。前年度の実験で、自由摂食群(AL)に長期にRKTを与えた場合、グレリン濃度に変化はなく脂肪蓄積を引き起こしたのに対し、摂食量をALの95%程度に抑えたRKT群ではグレリン濃度の上昇が認められた。このことからごく僅かなカロリー制限にRKTを補助的に与えることで、70%CRと同様の効果を得られる可能性が示唆された。本年度の実験では、CRに応答する転写因子のDNA結合活性を分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)活性によって検出することのできるトランスジェニックマウス(CRISP)のメスを用いて、生後18週齢よりAL群,95%CR群、95%CR+2%RKT、70%CR群に分けて12週間以上飼育した。血中のSEAP活性は95%CRとRKT投与群で有意な差は見られなかった。これはRKTの効果はCR応答性転写因子の活性を介していないことを示している。活性型グレリン濃度は95%CR群に対し、RKT投与群が有意に高く、また70%CR群とほぼ同じレベルであった。また、脳内NPY mRNAレベルは変化しなかったが、摂食抑制性ペプチドCART mRNAレベルがRKT投与群で70%CR群と同様に有意に抑制されていた。これは長期のRKT投与では、NPYではなく摂食抑制性ペプチドCARTの発現調節を介していることを示唆している。前年度の実験のRKT投与が酸化ストレス耐性を向上させる結果と合わせると、RKT投与は一部ではあるがCRのポジティブな効果を模倣することが期待できる。次年度はRKTが寿命に与える影響を検証する。
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